約 301,196 件
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/212.html
共同浴場という習慣は昔から存在する。 古代ローマ時代から共同浴場は存在しており、皇帝も入っていたという。 第二地球入植時代には一人一人がのんびりと浴槽に入れるわけもなく、巨大な浴室を作ってそこに入っていた。 そして今、入植したときにいた日本人の影響で「銭湯」というシステムが浸透している。 大きな浴槽に、山の絵に一直線に並べられた洗い場。ボイラー室から伸びる煙突。懐かしさを感じる入り口には、銭湯の文字が記されている。 剥げ頭の老人が暖簾をくぐって出て行った。 その直後、賑やかな一団が銭湯に近寄っていく。 一人は金髪に眼鏡の優男風の若い男性。一人は黒髪に冷たそうな目つきの若い男性。一人は黒に近い茶色い髪の毛を高い位置でポニーテールにした女性。最後の一人は長く美しい銀色の髪の毛に長身の女性。 男二人は会話が弾まないのか、ぽつりぽつりと言葉を交わす。 一方の女性陣は喧嘩にも似た会話をしていた。背後をとったウィスティリアが嫌がるメリッサをぐいぐいと押して銭湯に連れて行こうと―――……というよりかは連れ込もうとしている。 「なんでアタシが一緒にお風呂に入らないと行けないのよ。命の恩人へのお返しが銭湯って意味が分からないんだけど!」 「いいからいいから~。ここは私が奢るから、入りましょ?」 あのダイブの後、何故か一行は銭湯に来ていた。 汗を流すためだとかなんとか言ってウィスティリアに強引に了承させられたのだ。一人頷かなかったのは誰なのかは言うまでも無い。 暖簾をくぐって料金を払うと、それぞれ男女別の脱衣所に入っていった。 「それで」 「ええ」 「なんで引っ付いてくるのよっ」 髪の毛を下ろしたメリッサは体にしっかりとタオルを巻きつけ、後ろから追尾してくるウィスティリアから逃げるように小走りで洗い場に向かっていた。ウィスティリアは撒かされまいと転ばない程度の走りで追いかけていく。 楽しげなウィスティリアと比較してどことなくムスッとした表情のメリッサ。 メリッサが一つの椅子を引き寄せて座ると、その隣にウィスティリアが座る。慌てて一つ向こう側の椅子に座ると、ついてくる。 諦めの表情を浮かべたメリッサはシャワーで体を濡らし始めた。 すかさずウィスティリアが背後に回る。 「私が流してあげる」 「お断りよ」 後ろを見ないでピシャリと拒否を示すと、タオルの上からお湯をかけて汗を流していき、続いて顔を軽く洗う。疲れが取れていくような気がした。同時に妙な視線も感じた。振り返ると、そこにはまだウィスティリアがいるわけで。 見詰め合うというよりにらみ合ったまま時間が経過する。 耐えられなくなったメリッサが目を逸らす。ウィスティリアはうふふと楽しそうに笑った。 「アンタそんなキャラだっけ。なんかキャラ変わってない?」 「いいえ、これが普通よ?」 「………まーいいけど」 気にするだけ負けだと自分に言い聞かせると、シャワーで髪の毛を濡らしていく。頭頂部から落ちていく水が髪の毛全体を浸して、溢れ出した分はうなじ、鎖骨まで流れて全身を濡らす。 お湯がメリッサの肌を徐々に赤くしていく。 シャワーのコックを捻って止め、閉じていた瞳を開くと、目の前の鏡で後ろを確認する。ウィスティリアは後ろに居なく、隣で早速髪の毛を洗っていた。 面倒にならなくて済みそうだ。ほっと息を吐く。メリッサは頭と体のどちらを先に洗おうかと思考する。頭から洗ったほうがいいかな、と考えると、置いてあったシャンプーソープを手に取った。 銀色のシャンプーソープは誰かさんの髪の毛を思い起こさせる。 眼を瞑ってシャンプーソープをあわ立たせると髪の毛を洗い始めた。まずは地肌を洗うようにして脂を掻きだすように。続いてもみ上げを洗って、最後に後ろに垂れた髪の毛を洗う。 「ひっ!? ………なによ、なにすんの?」 ぴたりと何かが背中に触れて、ぴくんと肩を揺らしながら飛び上がってしまう。眼を閉じているせいで何も見えない。大方予想はついていたので後ろに居るであろう人物に声をかける。 「私が洗って、あ、げ、る」 「…………」 今までさほど付き合ったことがなく、普段はどんななのかが分からなかったため、ギャップに少々戸惑いを覚えるメリッサ。 他人に洗ってもらうなどもう随分無いこと。 眼を瞑ったまま後ろに首を捻る。 「ことわ」 「いいのね? ありがとう」 「そんなこと言って……はぁ、いいわよ。好きにして」 そこまで髪の毛を洗うことに魅力を感じているのか否か、判断出来なかった。ここで押し問答をしていても面倒なだけと考えたメリッサは、だらりと手を降ろすと、頭を相手に任せることにした。 ウィスティリアは口元を持ち上げるような笑みを見せると、メリッサの後ろに椅子を持ってきて座って、頭を洗い始めた。 意外と上手かった。 「もう頭洗ったの?」 「ええ。だって貴方の洗えないじゃない」 なんだろう。 なんだろう? メリッサは背中にぞくぞくとしたモノが走るのを感じた。 これは、そう、怪奇文章を解読する直前に似ている。経験は無いのだが。 銭湯の浴場は湯気とお湯の喧騒で満たされている。 全体を洗え終えたらしく、頭にお湯がかけられた。思わず背中を丸めてしまうと、なにやら後ろで楽しげな笑い声が聞こえた。 くすくす、というか、あらあら、というか、なんとも形容しがたい声が。 お湯をかけながらシャンプーが落とされていく。シャンプー分が取れてきたので細く眼を開いてみる。鏡には何故かタオルを取って座っているウィスティリアがいた。大きすぎる胸が垂れずに上を向いている奇跡を見せられて微妙に悔しかった。 メリッサは自分の胸を見てみた。ちょっと泣いた。 大体流し終えたらしく、シャワーが止まって壁にかけられる。 体は自分で洗わないとダメだろう。というか任せて置けないし許せない許したくは無い。そんな趣味は無い。 メリッサはボディーソープに手を伸ばしたが、それよりも早くウィスティリアがボディーソープを取ってあわ立てていた。 にっこり。 両手をワキワキさせながら背後に立っている。 ゾッとした。とりあえず、鏡のほうに一歩逃げておいた。 だが、逃げられなかった。身長は相手の方が高いし、筋肉とかの量も相手のほうが一歩勝っている。 ――以下は音声だけでお楽しみ下さい―― 「なぁあッ!? ちょ、ま、……止めなさいよ! へんたいヘンタイ!」 「いいじゃないの、減るもんじゃないし、スキンシップは大切よぉ~?」 「ヤダこっちこんな! むこう行け!」 「くっくっくっくっ……逃げ場など無いの――」 「誰かー!! だれうむっ………んー! んー……!」 「柔らかい。素晴らしいわ……」 「んーっ、んっ………ん、ぅ…………う~ッ…」 「ちなみに今の時間帯は人の出入りがとっても少ないのよ」 「ぁ、………んんんー! ……ゃめ、………?! んー……んっ!」 「なんかうるさいなぁ」 一方の男湯では、頭にタオルを乗せた男二人が浴槽でリラックスしていた。 タオルを乗せるというのはタナカのアドバイスを採用した結果である。 曰く「のぼせなくなる魔法」だそうだ。意外とファンタジーな言葉を使ったので驚いたりしたそうな。 かぽーん。 男湯には二人しか居ないのに桶の音がした。 地球にあったというフジサンの絵がドーンと壁に描かれている。なんとも味のあることである。 「タナカさんって筋肉凄いですよね」 「そうですか?」 タナカは額に浮かぶ汗を手で拭い、タオルの位置を直しながらユトに返事をした。 お風呂に入っている所為で顔は赤いが、言葉は冷静で感情が希薄に思える。 その水面下には男でも惚れ惚れするような美しい筋肉で包まれた体躯がある。 「鍛えていることは無駄にはなりませんから」 ユトは自分の腕を摘んでみた。ぷにぷにとは言わないまでも、タナカの体とは比較出来ないほど貧弱。腹筋を見てみると、割れているわけも無くて。脚も普通。なんとなく悲しくなった。 現実から逃れるために背中を浴槽の端っこに預けた。 「はーーーっ。気持ちいいなぁ」 「あと、いいですか?」 浴槽に体を預けて眼を瞑ったユトに、さりげなくタナカが声をかけてくる。 眼を細く開けてその方向を見てみる。 「風呂を出たらコーヒー牛乳かフルーツ牛乳、それか普通の牛乳を飲むのが日本人のスタイルなんです。美味しいですよ」 ちょっと熱の篭った声でそういうタナカに、ユトはちょっと意外そうな表情を浮かべて頷いた。 もう少しクール系だと思っていたが、案外話せそうだと思った。 壁にかかっている時計を確認したタナカは、股間を隠すことなくお湯から上がって、すたすたと歩いていく。 堂々たる態度にユトはちょっと畏怖に近い感情を覚えた。 隠さないのは厳しいので、タオルを巻いて外に出た。 タナカの「牛乳を飲むときは腰に手を当ててください」という言葉に従ったユトは、胃の中の冷たさと、体の温かさ、そして生温い大気との温度差に心地よさを感じながら外に出てきた。 遅れてタナカが肩にタオルをかけながら出てくる。 「あれ? 二人が居ない」 「女性のお風呂は長いものですから」 腕時計を一瞥したタナカは、直立不動で銭湯の入り口の端にて待つ。ユトもそれに従って待つことにした。時間は既に夜になっていた。空には星が光っている。 10分ほど経って、ウィスティリアが出てきた。 風呂に入ったからだろうか。頬が光っているような気がしないでもない。 水分を帯びた銀色の髪の毛を、頭を振ることで整えて、前髪を掻き分ける。持っているタオルで後ろ髪の水分を吸い取りつつ、軽い足取りでユトとタナカの前まで歩いてくる。 少し遅れてメリッサが登場した。 ………なんというか、魂が抜けてしまったような疲れ切った表情でフラフラと歩いてくると、ユトの前でピタリと足を止めた。メリッサの肩をユトが軽く叩いてみる。メリッサは、幽霊が如く頭を持ち上げた。 「なんかあったの?」 「………………なーんにも。帰りましょ」 ユトは首を傾げる。 メリッサは覚えてろと呟きながら悪鬼の顔で家に帰っていく。 タナカはストレッチをしながら歩を進める。 ウィスティリアはつやつやとした顔で歩いていった。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/1197.html
132 :ぽち:2012/06/21(木) 04 46 41 はい、新作投下しちゃうよーん 憂鬱西南戦争 第三話 「で、桐野どん、聞いてもよかと?」 「おう、何をじゃ」 「俺は戻ってくるまで絶対出陣してはならんというたはずじゃ。 そいをなんでおんしら鹿児島から出とっとじゃ?」 「あー、そいは・・・・・・・なんせ10年ぶりの戦なんで 薩摩隼人の血が沸き立つんを抑えきれんかったとでのぉ」 「納得はいかんが理解はした。 で、俺は出兵する場合は熊本城なんぞ放っておいてひたすらまっすぐ下関向え言わん勝ったかの?」 「そん場合後ろに敵残るっちゅうんが気持ち悪くてのお 一応帰順させようと手紙は出したんじゃが」 「見せてみい」 渡された手紙を読んで、猛烈な頭痛に襲われる野村忍介。 その手紙は 自分たちはこの度政府の行いに色々納得できない事があるので一軍率いて東京まで詰問に向う ひいては熊本城所属の鎮台兵は城門を開き武器弾薬糧食の全てを我等に明け渡し指揮下に入るべし かいつまんで言えばそんな内容だった。 はっきり言って喧嘩売ってるだけだ。 これで本当に城門を開く奴がいると思っているのかこいつらは ・・・・・・・・本気で思ってるんだろうな 薩摩の教育は基本薩摩武士をひたすら刀のごとく磨き上げるのが基本 そして、他藩の者を貶め侮辱し低く見るように教え込み続けた。 しかも鎮台兵といえば徴兵制により集められた兵であり百姓兵が殆どといってよい。 ならば生粋の薩摩武士としてとことん馬鹿にするのが普通なのだろう・・・・・・・ 「ほじゃ聞く。熊本城は名将加藤清正公が我等薩摩武士を防ぐために築いた天下の堅城。 それを落とすのになんぞ策はあるのか あるならなぜその策を使わん」 「策?」 本当に本気で言われた言葉を理解できない、と言った風情でその場の薩軍上層部は全員小首をかしげた。 「百姓兵の立てこもる城なぞこの青竹棒(いさらぼー)でひとたたきごわす」 天幕の中を笑いが満たす。 こいつら、本気でそう思ってやがる 「では聞きごわんと 一体何時あの熊本城を一撃で砕いてくれるんか」 「そいが簡単にはいかんとじゃ あれを見てくれ」 辺見が熊本城を指し示す。 「まず城の周りに鉄で出来た茨……鉄条網いうんか? あれがきっちりはられとって簡単に近づけん。 しかも城門のそばに鉄の塔がたっとってな」 「鉄の塔?」 「ああ、城の壁から生えるような形で出来とるあれはいわば二階にガトリング砲が置かれとる。 高みから降り注ぐ銃弾に一方的に殺される」 「……続きを」 「そいな塔が五つも六つもあっとじゃ。 しかも城内の大砲も数多くあって城に近づくことすら出来ん」 青竹で一叩きとかさっき言ってなかったか 「おんしのいつもの小知恵でなんとかならんかの、もう三千ほどが死んでしもうとる」 うわぁ、こいつ殺してぇ っつーか緒戦で全六万中三千死なせたのかよ 133 :ぽち:2012/06/21(木) 04 48 27 「ちっと待っとってくれ」 急いで陣幕を離れる そうでないと奇妙な叫び声をあげてあの阿呆どもに殴り込みをかけてしまいそうだったから 「野村さん」 振り向くと、そこには宮崎八郎どんが立っていた。 「判かっとる だから黙ってくれ」 「いいえ、言わねばなりません 薩摩軍は兵糧を殆ど用意していません」 「……おそらく鹿児島から運んで来ればいい程度に考えとっとじゃろ 鹿児島をがら空きにしたんも西郷どんや海軍に顔が利く坂本どんが止めてくれる、と根拠も無く信じとる」 「「馬鹿ばっか」」 「まったくじゃの」 唐突に聞こえてきた言葉に驚く二人。 「「ろ、老師!」」 「ほっほっほ、なんかそろそろ忘れられかけとるような気がして出てきたぞ すまんな、あの阿呆ども抑える事が出来んで」 「いえ、老師に出来なかったのならまず誰にも抑える事など出来なかったでしょう」 「そう言ってもらえて少しは心の荷が下りるわい。 しかしあの城、本気で百姓兵の寄り合いと考えておったら火傷じゃすまんぞ」 「と、仰いますと?」 「わしも年の功でな、それなりに裏にも多くの知り合いが居る。 それなりに腕利きのそいつらを忍び込ませて調べてみたが、殆ど戻ってこん」 「…………つまり、『それなりの腕利き』を倒せる腕利きがあの城にはおそらく複数いる、ということですね」 「判ったのはあの城の城主が『谷干城』」 「一筋縄ではいかない相手ですね」 「そして城内に『隠密御庭番衆』頭領四乃森蒼紫を飼っておるという事 つまりは潜入、暗殺はまず不可能といってよいじゃろ」 「………勝ちの目をだいぶ失った、というか自分から投げ捨てたんですね、我々は」 「しかも工廠から奪った一万二千発の銃弾、、あれがまた拙かったのぉ」 「そいはわかりもす 計六万ほどの軍勢が一万ちょっと銃弾を手に入れたところで全員に行き渡りもはん よって幹部とか生粋の薩摩モンのみに配られることになっとでしょう 今の俺らは薩摩武士だけでなかとです。 佐賀や秋月からのモンは俺らに拭い難い不信を抱いたンは容易に想像できもす」 「で、勝つ方法はあるかの」 「熊本城は放って置き、接近しつつある征伐軍を打ち破って篭城兵の心を挫く、これしかないと」 その場合鹿児島に戻るのが最善なんだがあの阿呆どもは今更引きはしないだろうし ホントどうすべ?
https://w.atwiki.jp/mobius8492/pages/19.html
機動戦士ガンダム外伝 -ACE to ACE- 第三話 「一つ目の巨神兵」 「本日より、貴様らは高等教育課程を学ぶ。この二か月の退屈な教練に別れを告げ、 退屈から学んだ退屈な基本を実践する過程だ。退屈な事を退屈に学んだ者は 本過程で振い落され、退屈に過ごした者はひどく後悔するだろう。準備はいいか?」 「はい!教練大隊練兵大尉殿!」 キルステン大尉の高等教育課程の訓示に合わせ、訓練生である俺たちはデカイ声を上げ 大尉の教練中の肩書である教練大隊練兵大尉を斉唱する。 訓示に合った通り、今までの教練は退屈そのものであった。モビルスーツの基本設計・運用思想の講義や、モビルスーツパイロットとしての心構えや基本的な座学。無線手の基本。 部隊指揮や士官的要素の座学。基礎体力訓練。唯一本領が出せたのは射撃訓練のみと きたものだ。とはいえ、やれるだけのことはやったと思っている。 それは訓示にもあった通りで、退屈なことを如何に積み重ねたかが重要だと本能的に 思ったからでもあった。とはいえ、やはり息抜きは必要なもので、大尉に盗撮を自白した後も 許可なく、最高の”おはだけ”撮影を目指してロッカールームに侵入を繰り替えしたものである。 そう。言い換えれば、積み重ねればいつしか最高な瞬間というのは手に入るものなのである。 思い返せば高等教育に至るまで着任後2カ月を要した。長いか短いかで言えば 短いほうである。こういった複雑高度化した機械・兵器の操作習得に俺のような 途中参加した者でも二か月で高等教育へと進むのはスピーディに他ならない。 その理由というのが、洗練された教育方法と、汎用的で応用的かつ多機能な教練機器、 すなわちシミュレーター類や、教育用コンピューターの発達である。 西暦の時代の軍隊が運用していた音速戦闘機パイロットの養成には約10年近い時を有したとも 聞く、それに比較するのならばMSパイロットの育成には約1年で完了するような形である。 西暦が終わって78年、まもなく79年であるが一世紀も立たぬうちに単純に9年の 学ぶ時間を短縮できたというのは驚くべき発展とも言えよう。 だが、大尉の言葉にあった通り。知識が満たない者は小麦粉のように振い落される。 パンになれるか、なれないかが本”調理過程”にはあるのである。 それは連邦出身の俺も例外ではない。 「では、貴様らが残りの時間を共に過ごす鋼鉄の巨人を説明する。正面に注目しろ」 訓練生の皆が集まる、巨大なハンガー。そこで高等教育過程の説明がなされている中、 巨大な外壁の横に、これまた巨大な横断幕が用意され、大尉の号令の後にその幕が下ろされる。 そして現れたのは、まるで神話に出てくる巨大な化け物に鋼鉄の鎧を着せたような立ち姿。 潜水マスクのようにとり回しされたパイピングと、誰もが震え上がる一つ目のような視認用モノアイ。 その場にいたほかの訓練生たちは息をのんで、その姿を見つめていた。 「これが貴様らがこれから実機訓練することとなる”モビルスーツ”。MS-05 ザクⅠだ」 その大尉の説明に俺の頭は興奮していた。鋼鉄の巨体が二足の足で直立しており 腕もついた、巨神の姿。 モビルスーツを見たのはこれが初めてだったためか、興奮と同時に俺の手は震えていた。 全長は約17m強、全身がつやのない軍用基本色である緑色で塗られたその姿はまさに 人が刃向えるものではないのは目に見えていた。今の状態でこそ武装はしていないが 実戦では、これの他専用装備の武器などの火器類を搭載した状態になるのだから 歩兵など蟻も同然なことだろう。 いつしか、訓示と説明は終わり、訓練生の皆が自由にモビルスーツであるザクⅠを見ていた。 他の訓練生たちも現物は見たことがないようで、その姿に驚きを隠せていなかったようだ。 「特務少尉、初めて見た感想はどうか?」 ほかの訓練生と同じく、俺もモビルスーツを眺めているとキルステン大尉が近づき 俺に感想を求めてきた。大尉も大尉である。連邦兵が見る機体の評価が気になるのだろうと 心中を察する。現状の地球連邦とジオンの関係は正直よくない。 過去おきたムンゾ時代の汚名や現政治体制の批判などの経緯もあり 連邦側で仮想敵国となっている兵士の意見である。有事の際や 今後に生かせると踏んだからなのだろう。 少なくとも、今の大尉は盗撮やら何やらは抜きに率直な意見を述べてほしいような面持ちであった。 「神話に出てくる一つ目の巨人。サイクロプスが思い浮かびます。いや、そのものというか」 「セクハラ大好きデクス君も、たまには博識な事を言うのだな。まさにその通り、 従来兵器の存在価値を一変させる新兵器という訳だ。そして君はそれに今から乗る。 連邦軍の軍人に間近で公開させるのはこれが初めてだよ」 なんとも光栄というのか、本当に見て乗っていいものなのか。少々不安になる。 新兵器というのは基本的に秘匿されるべきである。それを仮想敵国の連邦に公開したという点に 今まで感じていた政治的、外交的思惑を感じさせる。連邦もジオンも一枚岩ではないということ だろう。 「正直、軍事の範囲で見ればグレーな部分だが、君は両国の承認でここにいるからな。 政治的、軍事的。どちらも忘れて学んでいくことだな」 まるで俺の思考を読んだかのような返答に俺は戸惑う。 人を育てるという教官職なのだからかはわからないが、考えていることを読むに長けているの だろうか。その美貌も凄いが、切れ者という点もまた凄い。 「雑談もほどほどに。ではそろそろはじめようか」 「サーイェッサー」 俺はそう返事をすると、大尉は皆に搭乗指示を出すと皆それぞれMSに乗り込む。 搭乗と脱出は実機訓練を前に腕がちぎれるほど訓練したものである。 機内に乗り込むと、無骨なコクピットが目に映る。狭い空間と外を映し出すモニター。 通称FCSと呼ばれる武器システム管制装置やMSの動きを司る スロットル式操舵装置アームレイカーとフットペダル。動力トランスミッション制御装置や 機体並行装置と呼ばれるジャイロシステムのコントロールユニットなど、日常生活では まず見かけない装置の山々が集約され、それを確実に操作できるように、今まで訓練を 重ねたものである。 こちらスカリー0-1よりリトルバード各機。通信を確認しろ 搭乗時に装着したヘッドギアに内臓されたヘッドセットから大尉の音声が聞こえてくる。 MS搭乗時の大尉はスカリー0-1というコールサインになる。由来は諸説あるが 片目を眼帯で隠された姿が、まるでガイコツのようだという説が濃厚だ。 一方で、俺たち訓練生はリトルバードとなる。由来はそのまま。小鳥ちゃんという訳である。 全機ボイスコントロールマネージャ正常動作を確認。アクティベイト コピーリトルバード。それではこれより訓練を開始する。実機訓練は主に戦闘がメインとなる。 訓練開始時に言った私の言葉の意味はここにある。全ては戦を制するもののためだ。 あまりに評価の低い者は原隊へ帰属してもらう。そして至らない場合は訓練は始めからだ。 いいか? はい!教練大隊練兵大尉殿! 無線であろうとなかろうと、俺たちは訓練中、大尉に従うほかはない。 背いても失格、至らなくても失格。残酷なまでに公平な訓練だ。 リトルバード1-2。射撃はダメだな、1ステップ前の訓練からやり直せ。 同僚の訓練生が訓練のやり直しを命ぜられる。基本となる操縦方法、制御方法は この訓練の時点でわからない。だけでは済まされない。確かに学び、実践もしてあるのだから できないわけはないのだが。努力の差が、この訓練から出始める。 だが本質は違う。全て振い落すのが目的なのではない。いざ戦地に赴いた時に 生き残るために振るうのだ。小麦粉を振るう時のようにダマになった粉を細かく挽けるその時まで 訓練をやり直す。それでもダマになる粉ならば、捨てるしかないのだ。 この訓練とスケジュールはそのためのものだった。 リトルバード1-4。貴様は射撃の腕はいいな リトルバード1-4。すなわちそれは俺のコールサインだった。フォーチュネイト・サンズでも ここでも、射撃だけは褒められる。それ以外褒めてもらいたい気もするが、褒めてくれる相手が キルステン大尉ってだけで何とも嬉しいものである。美人だから?いや違う。デレを感じるからだ。 まぁ。盗撮と同じだもんな、よく狙ってシャッターを切る だが、一項にデレないのが、無線に割り込むフロイド曹長である。 2カ月も経つのに、いまだデレるどころか、親しげすら感じない。 卒業まで、こいつと分かり合える日がくるのが、終始疑問だ。 「ああ。今度お前も撮ってやるよ。”狙って、撃つ”の方だけどな」 へっ。やれるもんならやってみるこったな、特務少尉さんよ いちいち感に触る奴である。今、俺が搭乗するザクⅠは 中距離射撃訓練用に120mmの弾薬が装填されたM-120A1型のザク・マシンガンを 装備している。射撃管制システムをトラッキングしIFFこと友軍識別コードを変更すれば 味方機に対して射撃が可能である。そう、今なら奴を木端微塵にすることもできる。 無論、俺自身もただでは済まないが。 「いや、やめとくよ。牢獄死刑台フルコースを堪能するには俺には早すぎるからな」 怖気づいたか?やっぱ連邦の野郎は腰抜けだぜ 正直言って、ここまで言われるとノイローゼを通り越して、いろいろと複雑な感情が湧き出てくる。 何を言っても収まりはつかない。 はぁ・・・。貴様らは言い合っている時はまるで子供のようだな。そんなに争いたいのか? 教練大隊練兵大尉殿、この連邦野郎には我慢なりません。 ・・・そうか。ならばよろしい、では演習でケリをつけるのはどうだ? それは大尉からの提案であった。この終わりの見えない言い合いに終止符をつけるべく 演習で決着をつけるということだった。”不本意”だが、またそれに”同意”だ。 「面白そうですね大尉。その話に乗りますよ」 曹長。二言はあるか? いえ、初めて奴と気が合いました 決まりだな。それでは訓練終了後、市街地戦演習場で執り行う。上には見込みがある奴向け の追加戦闘訓練だと伝えておくさ。 随分と段取りがよくて関心する。キルステン大尉はバカ真面目なクールなふにふに美女だと 思われてるが、そうではない。この数か月見てきた彼女は、表向きは確かにナイテボディの ふにふに美女だ。だが、本当の姿は血を好む吸血鬼。戦闘に身を置くことで自分を表現できる 戦闘狂だ。 時間が流れ、今日の科目が終了する。だが本当の始まりはここからである。 奴との演習。長い時間、連邦の前任者が残してくれた憎しみという忘れ物。 そのツケが俺に回ってきた矢先の対立。それにケリをつける時である。 同期の訓練生が寄宿舎に戻っていくなか、俺は実戦用に支給された 濃い緑色のオリーブドラブ一色の戦闘用MSスーツに着替える。 訓練用と違ってピッチリと圧迫するような、質感の戦闘用スーツ。 宇宙空間、重力環境でも機体からの衝撃を和らげる効果が備わるだけでなく 緊急事態、機外へ脱出した際のエマージェンシーツールも備わり 拳銃弾程度ならば防ぐことのできる防弾繊維も備わっているものである。 「へっ。演習とはいえば事故はつきものだよなぁ。演習中熱くなりすぎてコクピットを潰しても 誰も”仕方がない”って思うだろうな」 ロッカールームも一緒とは、大尉もまた別の意味でいきな計らいをしてくれるものである。 とはいえ、この減らず口を減らすには実力を示すほかない。 「まっせいぜい無駄なあがきでもするんだな、特務少尉さんよ」 フロイドがそう言うと、我先にとロッカールームを後にする。 これから始まるのは、演習という名の実戦だ。 そして、連邦への憎悪と、連邦としてのプライドの代理戦争でもある。 さほど広くもない演習場で執り行われる情勢環境と現体制の主張合戦。 俺個人への侮辱も含めて、負けるわけにはいかない。 そう俺は思いながら、ロッカールームを後にすることにしたのだった。
https://w.atwiki.jp/satou/pages/467.html
先回り荒らしですよ奥さんw
https://w.atwiki.jp/oreqsw/pages/715.html
魔人と呼ばれる俺 第三話前編「簡易軍法会議とお風呂と俺」 [[俺「ストライクウィッチーズね!」 http //dat.vip2ch.com/read.php?dat=02325] 971-994 [[俺「ストライクウィッチーズだぞ!」 http //dat.vip2ch.com/read.php?dat=02326] 8-27 ―――――――― 朝…格納庫 …マズイ 非常にマズイ 二人に挨拶してから出掛けるのを忘れてた 夜間哨戒は終わっているはず…なら今は二人の自室か 今のうちに部屋に篭ろう ストライカーを脱ぎ部屋に入りベッドに横になる 疲れたな… …何故気付かなかったんだ…二人が俺の部屋に居た事に エイラーニャ「「俺!」さん!」 俺「ひゃい!?」 ごめん、変な声出た でもいきなり抱き着かれたら仕方ないだろ? 二人とも何か言いたかったらしいが眠気には勝てなかったらしくそのまま眠ってしまった …まんざらでもない俺はなんなのだろうか… 頭を撫でようとして…やめた この手を血に染めたのは昨日の事だ…今はやめておこう こら!人の服の中に顔を突っ込むな!本当に寝てるのか!? どうしてこういうとき強く出ることが出来ないのだろうか… 考えても仕方ない…寝よう ―――――――― 昼…格納庫内自室 もっさん「中々良い御身分じゃないか・・ そう思わないか?俺?」 俺「・・言い逃れはしないが今回は退けようにも退けられん 手伝ってくれ・・」 もっさん「はぁ・・ 今日は見逃さんと言いたいがミーナと私もお前に聞きたい事があってな・・ 正直に答えるならこれからも目を錘むっていてやっても良い」 …なにを聞きたいんだ? 条件的に凄く重大そうだな 俺「・・話せる範囲でな」 もっさん「お前はいつもそうだな それほどにお前は重要な情報を握っているのか?」 坂本がエイラーニャをそっと引きはがしている間に俺はゆっくりと離れる 俺「別になんでも知っているわけじゃない・・が知らない方が良いこともある」 もっさん「・・そろそろ執務室まで来て貰おうか」 坂本が背を向けて歩きだす こいつらは俺が殺人者と知ったらどんな顔をするだろうか… ――――――― 執務室内 ミーナ「・・俺さん 貴方は今まで何処に舞踏会へ行っていたのかしら?」 ほう…もう調べあげたのか そりゃあ情報の完璧な封鎖は無理だしな 正直に言ってやるか 俺「友達と俺の所属していた元基地に 後はオラーシャにも行ったな」 ミーナ「昨日オラーシャで事件があったのよ・・ 表向きにはなにも無かったことになってるのだけれどね」 俺「それに俺が関わっていると? もしそうだったとしてもどうしようも無いんじゃないか?」 ミーナ「そうね・・多分どうしようも無いでしょうね でもそんな人をこの隊には置いておけないわ 俺さん、どうなの?」 俺「・・必要だったからな あまり言及しないでくれ・・徐隊にしたければすれば良いさ 安心しろ、徐隊されても逆恨みとかはしないから」 ミーナ「・・わかりました この件は俺さんを除く私達でどうするかを決めるわ 少佐、良いかしら?」 もっさん「うむ、良いだろう 俺、下がっていいぞ ああ、後で二人を食堂に呼んでおいてくれ」 俺「わかった、失礼した」バタン ―――――――― 夕方…格納庫内自室 俺「エイラ、サーニャ、二人は食堂に来るようにと坂本が言っていたぞ」 エイラ「少佐がカ?ナンダロナ?」 俺「行けばわかる」 サーニャ「俺さんは行かないんですか?」 俺「ああ、俺は行かない 言いたいことは後で聞いてやるから行って来い」 サーニャ「いえ・・今言います 俺さん・・後で私とエイラと一緒にお風呂入りましょうね?」 俺「・・・・・」 待て、落ち着け、俺は(たぶん両親も)こんな娘に育てた覚えはないぞ 思春期特有の思い切った行動なのか? エイラなら・・エイラなら止めてくれるはず! エイラ「マ、マァ・・サーニャが言うなら仕方ないナ!」 仕方なくないから!止めろよ! 俺「さ、サーニャ?それは流石に不味いだろ?」 サーニャ「?別に減るわけじゃないですし良いじゃないですか・・ 呼ばれてますからわたしたち行きますね?」 俺の寿命が減ると思うぞ? ああ…もう行ってしまった… 俺「リーゼ・・ロッテ・・ これもう諦めるしか無いか?」 (そうですね…マスターが悪いですし諦めた方が…) (それより先に徐隊されるかどうかとかですけどね場合によっては無かったことになるかもしれませんし) …なるようにしかならんか 問題といえば改造ネウロイの事もだな 研究員から聞き出してわかったのは来るのは最長1ヶ月後、数は残り3体 高速多機動中型2 海上母艦大型1 わからないがもしかしたらまとめてくるかもしれんな そうなると単騎ではあれを使わない限り勝てない …あいつらを利用…いや、頼るしかないな もっさん「俺、少し良いか?」 俺「坂本?なんでここにいるんだ?」 もっさん「少し話しがあってな」 …………………… …なるほど確かに悪い話しではないな ―――――――― 俺裁判…開始 ―――――――― 夕方~夜…食堂 シャーリー「少佐ーあたしたちを全員集めてなにするのさ?」 もっさん「まあ待て、ちゃんと説明する」 ミーナ「表向きには何も無かったのだけれど 先日オラーシャで事件があったという情報を見つけてね それに俺さんが関与していたことがわかったの 今にして思えば誰かがわざと私の目に留まりやすくしてたんでしょうね・・ それで俺さんをどうするかをみんなで決めようと思ったの 資料はみなさん手元にありますね?」 ゲルト「要するに簡易裁判をしようというわけか わたしは現状維持で問題無い」 エーリカ「・・トゥルーデならここから追い出すとか私が更正させる!とか言うと思ったよ? そんなこと言うなんて珍しいね」 ゲルト「確かにわたしはあいつをそこまで信用していないしこれだけを見れば追い出すなりするだろう しかしここにいるあいつは必死にネウロイと戦っている・・昔の私と似ているところもある 今回の事も許せることではないがあいつなりに悩んだ末の行動だろう ハルトマンの言う通り性根は叩き治すがな」 エーリカ「私もトゥルーデと同じかな 交流は少ないけど昔に彼に助けられた事があるし優しい人だってわかってるしね ミーナもトゥルーデもそれはわかってるでしょ?」 ミーナ「それは・・わかってるわ でもそれだけで判断するわけにはいかないのよ」 もっさん「徐隊はしないが2か・・お前達3人はどうだ?」 ペリーヌ「わたくしはここには置いておけないと思いますわ やはり何があるかわからないわけですし」 リーネ「わたしもペリーヌさんとおなじです・・ 大丈夫ってわかってても怖いし・・」 宮藤「わたしは・・徐隊させた方が良いと思います・・ 今回の事とは別に俺さんはこのままだといつか死んじゃいます 前例もありますし・・」 シャーリー「うーん・・徐隊はともかくあたしも置いておけないと思うかな あいつは根っからの悪い奴じゃないけど やっぱりリーネやペリーヌも怖がってるしな・・」 ペリーヌ「わ、わたくしは別に怖がってるわけでは・・ ただあの人は油断ならないと言いますか・・」 ルッキーニ「あたしは追い出すのは反対・・ みんなの言ってる事もわかるけど 俺・・いっつも一人で頑張ってるし、必死だし、前も辛そうに出て行ったもん・・ 追い出すのは可哀相だよ・・」 エイラ「わたしも反対ダナ いつも助けられてるし今回ダッテ例のネウロイを放った黒幕を仕方なくヤッタ事ダロウシナ」 サーニャ「わたしも・・エイラと同じです 俺さんよくうなされてますし 今回の事も嫌々だったんだと思います・・」 ゲルト「うなされてるのか? 部屋も近くないどころか遠いのによく知ってるな・・・」 エイラ・俺(サーニャぁぁぁぁぁぁぁぁ) もっさん「ま、まあそれは置いといてだ 結果5対4で現状維持ということだな 入って良いぞ俺」 俺「普通この状況で呼ぶか? 入る事になるとは聞いてなかったぞ 判定は僅差だが・・お前達の意見によっては覆るぞ?どうする?」 もっさん「どうもせんさ 初めからわたしとミーナ以外のみんなに決めて貰おうと思っていたからな」 ミーナ「ええと・・美緒?どういう事かしら?」 もっさん「なに、どうせだから俺にみんなの遠慮無い意見を聞かせてやろうと思ったまでさ どうだ俺?参考になったか?」 俺「ああ、十分参考になったぞ バルクホルンとシャーリーを除けば大体は予想通りだが・・ これからは予想外の行動をすることも視野に入れた方が良さそうだな 戦場では一つのミスが全体の死を招く事もある どうした?やけに静かだな もっと何か言うものだと思っていたが」 ミーナ「自分の意見が本人に聞かれてたのだもの仕方ないんじゃないかしら?」 俺「よくわからんな 他人の評価なんて他人の勝手だろ 一々気にしていたら疲れるぞ? あんまり気にするなよおまえら」 …余計に空気が気まずくなった 俺「・・部屋に帰っていいか?」 もっさん「俺、たまには一緒に食べようじゃないか」 俺「この空気でか? それに俺は味も匂いもわからんから遠慮したいんだが」 シャーリー「匂いもなのか? 前はそんなこと言ってなかったじゃないか」 しまった…墓穴掘ったか…? もっさん「それがあの魔法の反動・・なのか?」 俺「・・さあな 坂本が気にする事じゃない ほっといてくれ・・」 もっさん「おい、俺 正直にちゃんと答えろ」 坂本が去ろうとする俺の腕を掴んできたが俺はそれを振り払う 俺「ちっ・・ああ、そうだよ でもそれがわかったからってなんだ?どうしようもないだろ? 俺は愛する家族の為なら血の一滴まで捧げてくれてやる! ソノ為ナラ視覚デモ触感デモナンダッテクレテヤルサ!」 坂本「・・俺?」 俺「はっ!?・・すまん 気遣いには本当に感謝している ・・部屋に戻って頭を冷やす」 これじゃみんなの飯を余計まずくしてしまっただけじゃないか 自分に嫌気がさすが俺は自分の部屋に戻ることにした もっさん「・・男というのは難しいな」 ゲルト「私も人の事は言えんが少佐は少々強引過ぎる節もあるしな やはり聞かれたくない事くらいあいつにもあるだろう 特にあいつは他人に気を使われたりするのが苦手なようだしな」 ミーナ「男の人は色々気難しいわね・・・」 エーリカ「ミーナ、話がループしちゃってるよ? それにしても俺・・なんか変じゃなかった?」 シャーリー「そりゃあ俺だって溜まってんだろ・・色々と」 エーリカ「そうなのかな・・」 宮藤「・・わたしご飯作りますね・・リーネちゃんも一緒に作ろ?」 リーネ「そ、そうだね・・美味しいご飯作ろっか」 エイラーニャ「・・・・・」 ―――――――― 夜…格納庫前 俺「・・・・・」 静かだな… いつか世界中が平和の中でゆったりと暮らせるようになって欲しい 人だから愚かなのか 愚かだから人なのか 昔にそんな事を問い掛けられた事がある 答えは未だわからない あるかもしれないしないかもしれない 結局誰でもわかるのは人は愚かな事には変わりないということだな 正直俺のやってることも相当愚かだよな… 俺「・・華は散り続けた~ 朱い滴堕とし~ 拒絶の声遠く~ 虚ろに消えて~」 歌は良い…心が落ち着く 俺「ah~ 戻りたい~ 戻れない~ そんな場所最初から失って~」 ※実験体の少女の心境を歌った曲(多分…) (マスター…前から言ってますがせめて曲を変えてください!) (洒落になってないんですよ! その曲で何人部下をトラウマに追い込んだと思ってるんですか!) 良い曲なのに文句多いぞ… 何を歌おうが俺の勝手だろ… サーニャ「綺麗な歌声・・エイラもそう思わない?」 エイラ「・・そうダナ(洒落になってないけどナ)」 IF短編1 俺「なんだ・・いたのかお前達 食事はどうした?」 エイラ「ご飯はみんなで食べた方が美味しいカラナ」 サーニャ「せめて三人で食べようってエイラと決めたんです サンドウィッチですけど・・」 俺「二人は優しいな・・ありがとう うん、暖かいな・・味覚が無いのが残念だ」 サーニャ「暖かい・・ですか?」 俺「ああ、誰かの作った料理を食べるのは久しぶりだからな・・」 エイラ「料理って言えるほどのものでもないケドナ」 俺「本格的に作っても持ってくるのが大変だろ サンドウィッチだって立派な料理だ 御礼に一曲歌おうかな」 俺は好きだった今では懐かしいオラーシャの子守歌を歌った 最後に歌ったのはもう十年程前か… サーニャ「懐かしいです・・小さい頃によく歌ってもらいました・・」 エイラ「ヘー・・小さい頃にサーニャが聞いてた歌ナノカー」 サーニャ「いつか子供が出来たら歌ってあげたいです ・・みんながご飯食べている間にお風呂に行きましょうか?」 忘れてた… サーニャ→目的がわからない 彼女のほっぺたは魔性のほっぺた エイラ→俺の耐久力では無理、なんで止めてくれなかった… しかし彼女の予知が有る限り他の人に見つかる事はないか? はっ!?水着着用でなんとかイケるんじゃないか!? 俺「・・水着着用で良いよな?」 サーニャ「・・俺さん水着持ってないですよね?」 そうだった・・ サーニャ「私達は用意してから行くので先に行ってて下さい」 エイラ「水着着用無しナノカ・・マァ良いけどナ」 もう突っ込むまい… 諦めてお風呂に行こう ―――――――― 基地内浴場 俺だ、今浴場の1番奥の隅っこにいる ここなら誰にも見られない …見られ無かったら二人に怒られ無いか? 怒られる方がマシです (ヘタレ) (正直言ってそれは無いです) 俺「うるさい、俺はヘタレだよ悪いか?」 エイラ「良くは無いナ でも必要な時に度胸があれば良いンダナ」 サーニャ「エイラの言う通りね・・」 …囲まれた逃げ場無し ――――― |俺エ | サ |岩岩 | | しかしエイラ、お前にそれはあまり言われたくない気がするぞ 幸い二人はタオルを巻いてくれている 少しは羞恥心あって良かった! まあ入浴剤かなんかしらんが湯が不透明だから元から見えないけどな エイラ「やっぱりお風呂よりサウナの方が良いナ・・」 サーニャ「エイラはサウナ好きだもんね 俺さんはサウナ好きですか?」 現状維持には好きでも嫌いでも無いとしか答えられんぞ… 俺「普通だな…特に好き嫌いというわけでもない で・・何の為にここへ呼んだ?」 俺にも限界あるんだよ? エイラ「別に部屋でもよかったんダケドナ でも少佐がいつも来るしここなら邪魔が無いシナ」 待て!寄って来るな!サーニャも真似しない! ――――― |俺エ |サ |岩岩 | | エイラ「今更ダケドサ・・俺、あの時はありがとナ 俺が居なかったら私達はここにもう居ナイ」 サーニャ「そうです・・有り難うございました俺さん・・」 二人が俺に抱き着き頬にキスする タオルが無ければ即死だった (あら…)(おや…) ((まあ… 良かったですねマスター)) 良くない…大問題だ 俺「なあ・・二人とも・・あまり俺に関わるな 俺は善人じゃない・・悪人だ…殺されても文句無いくらいにな 徐隊されないのが奇跡なんだよ」 この二人は置いておいてルッキーニはあんまり深刻さがわかっていない可能性が高い エーリカはよくわからん…一時の感情で反対した気もしないでない バルクホルンは失礼だがおかしい いくらなんでも反対はしないはずだ この馬鹿共が一時的に洗脳しやがったか (計画通りでないと困りますので) (正確にはここが1番計画通りに進め易いからです) だからってな…もう良い過ぎたことは仕方ない 二人をよそに考え事をしていたが急に沈黙していた二人が話し始めた エイラ「確かにそうかもシレナイ・・でも私は俺が好きでやってない事くらいわかっテル もうやらないで欲しいケドナ」 俺「考えてはおくよ・・」 サーニャ「俺さんはお兄様に似てます・・全部自分が責任を取れば周りが幸せだと思ってる所が・・ お兄様と言っても血の繋がりは無いんですけど・・ 私が小さい頃に家を出て軍にいるってお父様が・・ ・・知りませんか?」 …忘れてなかったとは聞いてないぞ エイラも固まってるし… 俺「いや・・聞いた事無いナ」 その人俺だしな 俺「・・そろそろ二人とも離れないか? 見つかる前に出たいしな・・」 エイラ「今は俺の時間だから大丈夫ダロ 入口に俺入浴中って札掛けたシナ」 俺「・・俺の時間深夜だったよな?」 サーニャ「・・俺さんが夜間哨戒の任が有るから変えといて欲しいって言ってた と伝えたら変えてくれました・・」 俺「そうだが・・言ってないし・・あくまでも離れない気か」 今更だがこれ俺が構い過ぎたせいで暴走してるよな… 周りから見れば男を知らない少女に付け込んでるわけだ しかも二人…まあ、良いか…今は諦めようなんかもう慣れて逆に余裕を感じてきた 余裕といっても出れるなら出たいが逃げられないしな その後は特に変わりなくまったりしていた(二人は) そろそろ時間になるので二人は先に、俺はその後で上がることにした
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/742.html
534 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/26(土) 01 25 40 ID KA6YcRrv 夏がくると、スイカを思い出す。 夏の風物詩といえるスイカであるが、実を言うと僕はあまり好きじゃない。 理由の1つが、赤い果肉の中に入り込んでいる黒い種だ。 大口を開けてスイカに噛り付くと、大量の果肉と一緒に種までもがついてくる。 ひと噛みするごとにいちいち邪魔をしてくる小さな種の存在が、僕にとっては不快だった。 もう1つの理由が、僕の父親の存在だ。 僕の父親はスイカを食べるとき赤い果肉だけではなく、皮まで齧っていた。 スイカをおやつとして出されるたび、僕は父親から赤身を残さずに食べろと 口うるさく言われてきた。 もちろん父親と同じようにできるはずもなく、僕はいつも赤身を少しだけ残した。 そして、父親に怒られた。スイカを全部食べなかったという理不尽な理由で。 それらのことがあったせいで、僕はスイカというものから距離を置くようになった。 夏休みに家で過ごしているとスイカを食べさせられるので、家にいない理由を いつも適当に作り出した。 図書館へ宿題をやりに行ったり、さつき姉の家に遊びに行ったり―――― うなだれて、ため息をひとつ吐く。 また、さつき姉のことが浮かんできた。 たった今風呂に入っているさつき姉の裸体を想像しないために、まったく関係のない ことを考えていたというのに。 1畳ほどの広さもないバスルームでさつき姉がシャワーを浴びている音が、 浴室のドアを通り抜けて僕の座っている居間まで聞こえてくる。 さつき姉がシャワーを浴びに行ってから20分が経とうとしているが、僕の主観では 2時間は経っているように感じられる。 さつき姉の作った夕食を食べ終えた後にシャワーを浴びてからも、僕の股間と 欲望は熱くなったままだった。 風呂上りに勃起している様を見られないよう隠すのには苦労した。 昼食後から現時刻の午後8時50分まで、僕はずっとこんな情けない状態のまま 部屋に閉じこもっている。 久しぶりに会ったからかもしれないが、さつき姉は僕によく話しかけてきた。 耳に優しいさつき姉の声を聞くたび、僕の体がうずいた。 奇妙な現象だった。いくらさつき姉が魅力的な容姿をしているからといって、 ここまで強く欲情したことはない。 まして、さつき姉とセックスしたいなど、実家に住んでいた今年の3月までは一度も 考えたことがなかったのに。 しかし、現に僕は今性欲を解消したくて仕方なくなっている。 僕の浅ましい欲望をさつき姉の体にぶつけたくないのに、全力疾走した後よりも強く脈を 打つ心臓は思いに応えてはくれなかった。 535 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/26(土) 01 27 30 ID KA6YcRrv 浴室のドアが開く音がした。しばらく体をタオルでこする音が続く。 足拭きマットを踏みしめる音が2つ聞こえた。さつき姉が出てきたのだろう。 さつき姉がしているであろう行動を背中で聞いているだけで下半身に血液が送り込まれ、 欲望を閉じ込める役目を任された腹筋が固くなる。 自分が吐く息すら強い熱を持っている気がする。 ふと、バニラのアイスバーに息を吹きかけたら溶ける様子が浮かんだ。 バニラアイスでもドライアイスでもいい。僕の欲望と熱を抑えてくれ。 居間とキッチンを仕切る引き戸が開くと、シャンプーの匂いがした。 匂いを大きく吸い込んでしまいそうになるのを必死に抑える。 さつき姉は僕の背中に向かって声をかけた。 「ねえ、惣一。ドライヤーはどこにあるの? 私持って来てないのよ」 「え……。なに、もう1回言って?」 「なにぼうっとしてるのよ。ドライヤーは、この部屋の、どこに、あるの?」 さつき姉は上の空の返事をした僕に言い聞かせるように言った。 そういえば、ドライヤーはどこ置いただろう。 部屋の空気に混ざり始めた鼻をくすぐる匂いのせいで、簡単なことの答えも見つからない。 そうだった。ドライヤーは浴室のドアの近くにかけてあったはず。 僕がさつき姉にそのことを伝えようとして顔を上げると、バスタオルを体に巻きつけて 部屋の中を探し回るさつき姉の姿が目に入った。 力を振り絞り、目と顔をあらぬ方向に向ける。 「どこにあるのよ、ドライヤー。早く髪の毛を乾かしたいのに」 「浴室の、ドアの壁」 「ん? 何か言った?」 さつき姉が、僕の目線の先でしゃがんで見つめてきた。 湯上りで湿った髪と、わずかに濡れた肩と膝と、タオルに収められた胸の谷間が見えた。 「浴室のドアの近くの壁にかけてあるから! 早く服を着てくれ、頼むから!」 「ああ、あそこにあったのね、気づかなかったわ」 さつき姉は立ち上がると、ぺたぺたと歩いて浴室の方へ向かった。 ドライヤーの騒音が聞こえる。髪を乾かしているのだろう。 時々大きくなったり小さくなったりするドライヤーの音を聞きながら、僕は長いため息を吐いた。 ドライヤーの場所を尋ねられて答える、というだけのやりとりで僕の精神力はかなり磨り減った。 大学の眠たい講義を受けていてもここまで疲弊しないだろう、というぐらいに。 536 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/26(土) 01 28 50 ID KA6YcRrv さつき姉は髪を乾かしてパジャマに着替えると、僕の傍に座った。 僕がさつき姉から距離をとると、さつき姉は空けた距離をすぐに詰めてきた。 さつき姉からの逃亡は、僕の背中が壁についたことで幕を下ろした。 部屋は6畳しかなかったから、2人居るだけでも狭く感じられる。 「なんで逃げるのよ。そんなに怖がらなくてもとって食ったりしないわよ」 間近で声を出すさつき姉から顔をそらす。見ているだけで自制が利かなくなりそうだ。 「それに、なんだか顔が赤いわよ。もしかして夏風邪?」 さつき姉の手が、僕の額を覆った。風呂上りのせいだろう。額に手のぬくもりが感じられた。 「うーん。熱は無いみたいだけど、本当に大丈夫?」 今度は、身を乗り出して僕の顔を見つめてきた。 さつき姉の美しいラインを描いた二重まぶたがよく見える。 風呂上りから間の無い髪の毛はまだシャンプーの香りを漂わせていて、空気を柔らかくしていた。 僕は、さつき姉の唇にくちづけたかった。 上下の唇を舌で割り、歯と歯の間を舌の先でなぞり、唇の裏と頬の裏を舐めて、 さつき姉の舌を自分の舌で嬲りたくなった。 ピンク色のパジャマを震える手で急いで外し、ブラジャーをまくりあげ、胸の谷間に 顔を埋めるところを想像した。触感までも、想像することができた。 そして、さつき姉の足を開いて中へ入るところまで思考を泳がせたところで、自分の頬を殴った。 続けて左の頬を左拳で殴る。頬骨と、拳の尖った骨が思い切りぶつかった。 「いきなりどうしたの? 自傷癖でもできてたの?」 「……もう、寝よう」 「え、でもまだ10時にもなってないけど」 「いいんだよ。僕はいつも10時には寝るようにしてるんだから」 僕の言葉を聞いて、さつき姉は一度顔をしかめてからため息を吐き出した。 「仕方ないわね。じゃあ、もう寝ましょうか」 僕はさつき姉に背中を向けて、深く腰を曲げながら布団を敷き始めた。 537 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/26(土) 01 30 34 ID KA6YcRrv 歯を磨いて、部屋の電気を消して布団に潜り込んでから、僕は自分の行動を後悔した。 横になった僕と向かい合う形でさつき姉が布団に入ってきたのだ。 僕が布団から出ようとすると、さつき姉に肩を掴まれて動きを止められた。 「どこに行くつもり?」 「僕は台所の床で寝るよ。さつき姉は1人で布団を使って寝ていいから」 「別にいいじゃない、一緒に寝ても。昔はよくこうやって一緒に眠ったでしょ」 「今と、昔は違うよ」 僕が手を伸ばすまいと努力していることにも気づかず、さつき姉は言葉を続けてくる。 「ふーーん。も、し、か、し、て。さつきお姉ちゃんの体に興奮しちゃってるとか?」 否定しようとしたら、いきなりさつき姉が僕の首に手を回してきた。 吐き出す息まで感じとれる距離に、さつき姉の顔がある。 「でも、私を無理矢理どうにかしようとか、惣一にはできないよね」 その言葉は、僕をからかっているようだった。 体の中を駆け巡る欲望が、大きな津波のようになって押し寄せてきた。 できない、とさつき姉は言った。僕に、僕自身がしようと思っていることはできない、と。 僕がしたくなっていることなど、さつき姉は気づいていないようだった。 「ふふ、できないわよ。惣一には、まだそんなことはできないって」 さつき姉は、鼻から小さく息を吐き出しながら笑った。 僕は、さつき姉の笑顔を汚してやりたくなった。 苦痛に顔を歪めさせて、身を捩じらせて、僕の思うままに弄びたい。 いつまでも子供のままだと思っているさつき姉の考えをひっくりかえしてやりたくなった。 さつき姉を喘がせて、呼吸と体を乱れさせて、涙を流させて――――? 涙を流させる?さつき姉に、か? 初恋の人に、また涙を流させようというのか、僕は? 538 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/26(土) 01 32 33 ID KA6YcRrv 僕が高校時代に好きだった女の子は、さつき姉が原因で離れていった。 だから僕はさつき姉を無視し続けて、寂しい思いをさせた。そして泣かせてしまった。 最後には一言も言わずにこの町へやってきた。 僕と再会するまで、さつき姉が寂しい思いをしていたのは違いない。 久しぶりに僕に会いたいと思ってやってきたさつき姉を、僕は自分の欲望のままに泣かせて、 汚して、傷つけるのか? 今度こそ、決定的な傷をつけてしまおうというのか? 僕にそんなことができるわけ、ないじゃないか。 僕はさつき姉を嫌っているわけではない。むしろ、好きなままだ。 ただ、まだ時間が欲しいんだ。僕の頭が冷えて、さつき姉を心から許せるまで。 だから、今は。 「おやすみ、さつき姉」 こうやって、背中を向けていたい。 さつき姉と向かい合っていたときとは違い、僕の欲望は鎮まり始めていた。 緊張が解き放たれて、精神の疲労が心地よく眠りに導いていく。 まどろみの中で、さつき姉の声を聞いた。 「ふう、仕方ないわね。……まさか耐え切るだなんて思わなかったけど。 でもいいわ。今日のところはお休みなさい、惣一。また、明日ね」 開けたままの窓から入り込んだ夜風が、カーテンを揺らし部屋の空気を押し流していく。 昼間のうだるような熱気のない、肩を優しく撫でてくれる風だった。
https://w.atwiki.jp/isupe_s/pages/57.html
待ってろワイリーーー!! ≪第二話-1 巨大な大木と悪夢 戻る 第四話 ボリオブラザーズ≫ SS集 クリックでオープン! +... ロックマン登場 上昇 画面が切り替わります 登場キャラクター リトル ロックマン 登場する敵 ビッグスタンパー プチデビル・Y プチデビル・G ダイヤーン シールドアタッカーRX マシカンガンジョー ブンビーキャッチャー メットール カモフラメットール Yデビル・ボール&Gデビル・ボール(ボス) 登場するマップ ワイリーステージ ポイント 今ステージはロックマン9のワイリーステージ3をモデルとしている。 初回はラストに待ち構えるYデビル・ボール&Gデビル・ボールの2体を倒すことによってこの話は終了します。再度訪れることによってあるミニゲームが楽しめるようになります。 用語 ≪第二話-1 巨大な大木と悪夢 戻る 第四話 ボリオブラザーズ≫
https://w.atwiki.jp/amaya_st/pages/48.html
作者: タイトル:蛇神と少女の幻想曲~第三話~ 草木も眠る丑三つ時。 街灯のぼんやりとした光だけが見守る闇の世界を一匹の化け物が闊歩していた。 教え子の注文に応え、一度組み上げた魔具を再構築するのは愉快と同時に面倒臭い。 故に蛇の王は淀んだ頭を一新すべく、獲物を探して唯進む。 そして、自らの感覚に従い見つけ出したのは一匹の異形だった。 外見上は人のように見えるが、その身から漂う気配は人にあらざる者。 おまけに食事中だったのか、抱きかかえた女の首筋に牙を突き立てていたりする。 「昔、大陸で見かけたことがある。アレか、お前は血を吸う鬼じゃろ?」 「何だ、人間ではなさそうだが我に何か用か?」 「とりあえず膝を付け。神を前にしての不遜な態度、今なら大目に見よう」 「・・・見なれない種だが、200の齢を数える我に向かって何を言う」 「何だ、若造ではないか。若輩故の無礼ならば一度までの無礼は許そう。しかし、今は些か機嫌が悪い。最後の警告だ、地べたに這い蹲り許しを請え」 傲岸不遜の物言いは、吸血鬼のプライドを逆撫でするものだった。 吸血鬼は長きを生き抜いた夜族として絶対の誇りを持っており、売られた喧嘩を聞き流すことは出来ない。 故に本能の赴くまま食べかすとなった女を投げ捨て、身の程を弁えない馬鹿者に己の力を解き放っていた。 「夜の王に対する分不相応な物言いを胸に抱き、消失しろ」 “吸血鬼”という種に備わった能力の一つ、対象を意のままに操る念力を起動。 対象は月の一部ではなく全身だ。原型をとどめぬよう圧殺し、格を見せつけてやろうとの考えである。 「・・・世が世ならば余の姿を見ただけで皆が平伏したものだ。時の流れとは残酷であり、刻み込んだ恐怖すら失わせる最強の概念だのぅ」 頂点はこの世に一人、それは世界に同種族が存在しない神祖としての譲れない信念の一つだ。 それは月の知る数種の神祖も同じ考えのようで、各々が司る分野に置いては相手が自分と同等だろうが、格上だろうが一歩たりとも引いた姿を見たことがない。 別に夜を司る存在ではない月は、手を出されなければ見逃していいとすら思っていた。 しかし、神祖仲間での取り決めは守らなければならないだろう。 王どころか神を名乗る存在は、如何なる時も同族以外に後れを取ることは許されないと言う絶対遵守の取り決めを破っては沽券に関わってしまう。 とは言っても、そこらの吸血鬼如きに本気を出すのも大人げない。 一撃で捻り潰すにしても力で挑まれたなら力で返礼、それが上位者の礼儀か。 そこで久しぶりに固有能力を起動する。 特殊術式“概念創造”始動。対象概念“念動力”を定義、術式として通常発動開始。 「なっ、我の力が押し返され!?貴様っなにも――――べりゃ」 「悪いが興醒めだ、四桁も生きていないガキに用は無いのだよ」 不可視の力を全く同じ能力で打ち負かし、吸血鬼が望んだ結果を叶えた月だった。 ただし威力が違う。敵とも呼べぬ小物は単純に潰そうとしただけだが、こちらは物理法則を超えた力で体を押し潰し続ける事を止めない。 狙うのは質量を無視し、一滴のしずくへと圧搾する極限領域だ。 「・・・・むぅ、硯梨用の獲物を捕獲するつもりが殺ってしまった。だが問題あるまい、まだまだ予定時間まで猶予はある」 水滴が地面にこぼれ落ちるのを見て、しまったと反省する月はどうしたものかと黙考。 この町は霊力のバランスが酷く崩れており、簡単な探査式を放っただけでも三桁近い異形を補足している。 しかし魔術師の剣たる杖の性能テストと、硯梨の考えた机上の空論を試すに相応しい獲物はさほど数が居ないのだ。 なにせ条件が”月の命令を理解する知恵”を持ち”下級術式程度で沈まない耐久力”を備えた上級異形である。 売り言葉に買い言葉でうっかり倒してしまったが、吸血鬼は妥当な線的だったりする訳で。 「やはり打たれ強さに定評のある鬼が手頃。うむ、そうしよう」 一人呟き、その気になれば助けられる女を路傍の石のように無視して月は動き出す。 ひょっとすると硯梨は勘違いをしているかも知れないが、神と名乗ろうが所詮は異形だ。人間など虫けらと同じなのだから当然だろう。 人間が家畜を愛でるように、気に入った個体へ多少の便宜を図る事は確かにある。 が、それは例外でしかない。所詮、種族の違いはどうしようもない真理なのだから。 さて、それはともかく腹が鳴って仕方がない。 旨そうに血を啜っていた小僧のおかげで、懐かしい珍味への食指が止まりそうになかった。 「どれ、硯梨に人を食わぬと公言した手前・・・退魔師でも喰らうか。人とは魔力を持たぬ者の事、ならばあの連中は人ではあるまい」 宣言を守るのは神として当然だ。 しかし、解釈の違いくらいは許されて当然だとも思う。 特に仕事がせっぱ詰まれば詰まるほど、余計な欲に流されるのは人も異形も同じなのだ。 「証拠を残さぬよう注意を払うとしよう。あの娘は久しぶりのお気に入り、万が一にも嫌われてはつまらん」 元々の予定に組み込まれていた夜食も決まり、月は上機嫌に空を見上げた。 煌々と看板が輝く牛丼屋も気になるが、飽きたと言っても口慣れた人の子も悪くない。 黒い闇に浮かぶのは己の名の由来となった輝く衛星だ。 七夜月とは7月の月の別名であり、生命が輝く夏の夜を照らす夜の王。 ならば今この時、王として民を自由に扱って何が悪かろうか。 「さて・・・街の掃除を兼ね、夜の世界を散策するかのぅ」 この日住宅街を中心とした広域で異形ゼロの空白地域の発生を統括組織は観測したが、その理由に辿り着くことは出来なかった。 何故ならば偶然の可能性を否定しきれない事態の調査より、突如失踪した少なくない数の退魔師の行方に人員を割かねばならなかった為である。 しかしそんな事件を起こした張本人はと言うと、腹を満たした後は鼻歌交じりに黒澄家へとこっそり戻っていた。 どうも上から目線がまずかったらしく、思わぬ数の異形を倒して回る羽目になったのはご愛敬。 おかげで作業時間が押している。かなり窮地な感じが否めない。 「抜き足差し足・・・必殺ステルスモード」 就寝中の一家を起こさぬよう気配を断ち、しかし軽口を漏らしながら階段を上る。 久方ぶりにハシャいだおかげか杖の再設計案も浮かび、何とも言えず上機嫌。 今ならどんな目にあっても笑顔でスルーできる自信が漲る月だった。 「ふわぁ、結局フレームから作り直しかい。まだまだやらにゃーならんことが山積みだぜぃ・・」 硯梨の部屋の前を横切る際ついつい愚痴っぽい事を呟いてしまったが、きっと寝ているので大丈夫。 正確には愚痴ではなく、わざわざ買ってきたパーツ数の多いプラモを作る上での武者震いに近いのだ。 例え聞かれたとしても何ら問題はない。 月はそんな事を考えながら自室へと戻ると、物質の最小単位にまで分解した魔導杖を前に座り込んで思索に耽る。 出かける前に依頼していた特殊部品は帰り際に受け取ってきた。 コレを採用すれば性能は段違いに上がる反面、システム回りの見直しが必要となってしまう。 はっきり言って面倒くさい。しかし、元来文化神の一面を持つ月は本能に従うようにあっさりと決断する。 残り時間は約24時間。全力を振り絞れば何とかなるはずだ・・・と。 「・・・目指すレベルは神器級。人が三日で城を造るのならば、余はその1/3の時間で十分」 こうして誇りをかけた、歴史上でも類を見ない突貫作業が始まるのだった。 <蛇神と少女の幻想曲~第三話~ 硯梨と愉快な仲間達> 朝焼けに染まる赤の世界。 しかし圧倒的な朱の色に染まらぬ白い影があった。 「第16次テスト開始。残存魔力を使い切って誘導概念を付与」 『汎用砲術“天弓”、ランダムバーストから、パッシブロックオンに変更』 意志を与えられた白の持つ杖が淡々とベースフォーマットへの概念追加を告げると、放たれるのは幾つもの光だ。 光は鋭い先端を持つ光の矢であり、その数は5。見た目には幻想的だが、その速度は雷光の如く疾駆する純粋な破壊を秘めた攻撃術だった。 続いて光の矢は瞬きも終わらぬうちに弧を描いて着弾、硯梨のデビュー戦の締めを飾る赤鬼を地に伏せさせる結果を生んでいる。 「仕上がりは上々かな。メインに使う術式にしては良い出来だと思わない?」 「うむ、威力も十分、詠唱も皆無と悪い点は見あたらないが――――」 暇つぶしに持ってきた携帯ゲーム機から顔も上げずに月は続けた。 「余が見繕ってきたラスボスはタフが売り、きっちり止めを刺さない限り何度でも立ち上がるのだよ」 見れば、鬼は何もなかったかのように起き上がろうとしている。 肉を刮ぎ落とし、腹には炭化した焦げ後が残っているにも関わらずだ。 「うわぁ、これだけ撃ち込んでも倒せないなんて頑丈を通り越して化け物・・・って化け物なんだっけ。でも逆に嬉しいかも。色々と・・・・試せるし」 杖の先端を鬼へと向け、硯梨は脳内で術式を組み立てる。 まずは先ほどのワンショットで使い果たした魔力を再チャージ。 組み込まれた装弾機構を稼働させ、装填してある弾頭から魔力を吸い出して排出する。 空の薬莢が地に落ちれば杖の魔力コンデンサーに魔力が満ち溢れ、戦う準備は十分だ。 しかし硯梨は動かない。鬼の一挙一動を見逃さないよう集中して構えるだけだった。 すると鬼も好機と考えたのだろう。今までは機先を制する弾幕のせいで一歩も前に出ることが出来ず、溜めてきた苛々を発散すべく跳躍。 己の武器である強靱な四肢、中でも粒々と筋肉の盛り上がる腕を全力で振り上げていた。 『常駐術式“運動系数改変”を二倍で定義』 しかし鬼の一撃は地面をえぐるだけで少女には届かなかった。 概念により本来の身体能力を二倍に強化した硯梨は、最小限の足捌きで剛風を回避。 故に鬼との距離はほぼゼロ。この間合いでは鬼の方が有利にも関わらず、硯梨は距離をあえて取らない。 破壊が産む風が場に似つかわしくない白のワンピースを靡しても、この場の支配権はこちらが握っている。 「うんうん、対クロスレンジ用も絶好調。これを使いこなせば今後役に立ちそう」 概念とは何と便利な力だろうと硯梨は思う。 敵に対しては矛となり、自らには盾となるこの力。 非力な少女では間に合わない動きも、己の身体に概念を付与するだけで不可能が可能になるのだから面白い。 「チャージタイムも稼げた・・・少し大きいの行こうか」 加速された体は、それ以上に高速演算を続ける脳の命令に遅れなく反応。 この一撃の為、リスクを抱えてでも的を不利な間合いに呼び込んだのだ。 硯梨は威力を増幅する魔法陣を杖と鬼の僅かな隙間に展開し、薬莢を排出して魔力を補充しながら一呼吸。 数で押す事を主軸とする汎用式とは違った、一点集中、一撃必殺に重点を置いたとっておきの切り札を起動していた。 「これが最終テスト!」 『発動シークエンス開始。収束・増幅用魔法陣展開クリア。効果発生部位にエラーを三カ所検出も補正完了。ですが――――』 「ですが?」 『魔力の過剰供給によるオーバーロード発生。バックファイアが予測されます』 「この際OK、処理続行!多少痛くても耐えれば良いだけっ!」 術者の覚悟完了。 ならば、と杖は己の責務を全うするべく肥大する主人への負荷を無視して術式を展開。 計算によるとヘビー級ボクサーの拳に匹敵するダメージを硯梨に与えることになってしまうが、ゴーサインを出された以上、敵の撃滅こそが主の本懐だ。 何よりこれはあくまでも実戦テスト。問題を洗い出し、その身で味わってこそ意味がある。 『了解、殲滅砲術“雷神槍”起動』 そして破壊の光が産まれる。密着した零距離射撃、人の背丈程もある極太の閃光は堅牢な防御力を持つ鬼をあっさり貫くと、傍目にも暴走しているのが判る無軌道さで周囲を破壊する。 収束しきれなかった一部は川に着弾すると水を沸騰させて盛大な水柱を上げるわ、こっちを見ていなかった監督役にはとばっちりを食らわせるわ散々な結果である。 ちなみに反作用で気絶した硯梨は知る由も無かったが、今回の鬼は首を落とさない限り死なないと言う属性を持っていた。 そのため胴体を丸ごと奪ったにも関わらず再生を始めており、一人で対峙していたなら命はなかっただろう。 が、そこは保護者同伴。流れ弾による怪我もなくピンピンしていた月が一瞥すると、鬼は存在を抹消されていたりする。 「ギャーッ!?余のポケモンのデータがー!?大会用に育てたミロカロスがー!?」 『ピンピンしていて何よりです。と言うか、電子制御が可能ならば好きなようにチートすれば良いのでは?』 「判ってないのぅ、努力に運が絡む物を好きに弄っては面白くないのだよ。望んだ結果を必ず手に入れられるからこそ大事なのは過程。人が無駄という部分にこそ価値を見いだすのが余なのです」 『そんな創造主だから、私にも無駄と切り捨てられる機能が山積みなのです。マスターは尖った性能大好き、余分な機能があるならリソースを他に回せと言い張る御方ですよ?ワンオフの専用機として私が設計されたなら、失敗作の予感がします』 「辛口なAIじゃなぁ。奴に任せたのが間違いだった!性能はともかくアクが強い」 月は杖の人工知能を知人に任せたことを心底後悔していた。 いかに時間が無く向こうの方がこのジャンルでの実力が上だとしても、予想してしかるべきだった。 しかし時遅し。今更変更するのも面倒&機能的には問題が無いのでは諦めるしか他にない。 「まぁ、非観せんでもよい。お主は現時点で人の作る玩具とは比肩できぬスペックを持ち、成長進化すら可能な傑作なのだ。称えられるいわれはあっても、貶されるいわれは断じてない。余が保証しよう、まだ名も無き神器よ」 『そうですか。では、安心してマスターの剣となりましょう』 「杖だがな」 『言葉の文です。私は手始めとして世界最強の頂きに上り詰める予定の杖、野蛮な剣なんぞと一緒にされては心外だと判断します』 「いきなり目標高いのぅ!?」 『神が保証した傑作なのでしょう?それくらい当然です。むしろ全銀河にすら範疇を広げてもいいくらいと思いますが』 「あー、頑張れ。余は正直ついていけません」 『ついてこなくて結構。さて、そろそろマスターを起こしましょうか。創造主、宜しくお願いします』 「仕方がない、起きろー起きるのだー硯梨―」 月は目を回して伏している生徒を抱き起こすと、ぺしぺしと頬を叩く。 反応が薄いため一応身体の異常を探査式で探ってみたが、何処にも問題が無く一安心。 そこで肩を強めに揺すり覚醒を促した所、ようやく意識が戻ったようだ。 「あうう、寝違えたみたいに首が痛い・・・・あ、鬼は!?」 「余が潰しておいたから安心するのだ。とゆーか、杖が警告してるのに無理はいかんよ」 「だって絶好のチャンスだったんだよ?躊躇する位なら何度でも同じ選択をするね、私は」 「その突貫精神はヤバイと思うんだがのぅ・・・支援担当としてはどうなんだね」 『マスター、一か八かではなく確殺の方向で戦術を煮詰めましょう。でも、私は多少のリスクより好機を選ぶ考え方は嫌いではありませんよ』 「だってさ」 「渡して間もないのに、速効で飼い主に似てきとる!?」 『褒め言葉と受け取りましょう。それよりもお時間です。計算による諸々の準備を全てクリアするには32分16秒以内に自室へ戻る必要があると判断します』 「もうそんな時間?急いで帰ろっか」 昨晩から開始した実戦テストも、気がつけば日が昇ってしまっていた。 一晩中の魔力運用は相当の疲労があるはずだが、それを感じさせない元気な硯梨を見て月は思う。 いかに魔力は外部供給といっても扱う術者にはそれ相応の精神力と集中力が要求されるのに、見た目に寄らずタフな娘だ。 確かに掻き集めたのは雑魚ばかり。しかしけろっとした顔で初戦にも関わらず撃破数10、これは凄いを通り越して異常としか表現出来ないと。 しかし一番恐ろしいのは、別種族であろうと躊躇いを見せずに命を奪うその精神だ。 普通は生殺与奪を得ることに怯え、恐怖から錯乱することもあるだろうに。 少なくとも、月がかつて見た戦国の若武者達ですら初陣で縮こまる者も多かったはずである。 「あー余は朝飯を食べてから戻る故ここで解散。この辺の異形は根こそぎ葬ったといっても、気を付けて帰るのじゃぞー」 「はいはい、お付き合いありがとね♪」 『創造主、帰路の安全確保はお任せを』 月はぺこりと頭を下げて自転車を走らせていった硯梨を見送ると、指を一つ鳴らす。 広域付与概念“人払い”及び“遮音”。並びに“認識阻害”解除。 今も昔も変わらず、対異能の組織は五月蠅い物だ。 曰く“魔術を秘匿しろ”、“異形に与するものは敵”。 そんな連中に気づかれては面倒なので、わざわざ隠蔽概念を展開していたりする。 特にこの街では、わざわざ衝突したくない異形が昔から変わらず対魔師を束ねているのだ。 月は己の欲求を何一つ我慢するつもりはない。しかし、無駄な手間もかけたくないのも本音。 自分はいい。人の子をいくら引き連れてきたところで、苦戦するにしろ敗北はないのだから。 だが、硯梨は違う。あの娘は壊れてしまうかもしれない。否、絶対に命を落とすだろう。 それは不愉快だ。故にこうして多少の手間を惜しまない月である。 「・・・アンデスにいた頃の余なら被害など二の次に、あやつを狐鍋にしてやろうと突貫していたか」 世界を一周した後、最後に落ち着いたこの小さな島国で少しばかり自分は変わったのかもしれない。 その変化を起こした人間の事を思い出し、次に現在進行形で影響を受け続ける少女のことを考える。 「しかし、まだ穴だらけでも応用スピードが並ではない。これは末恐ろしい魔術師になるだろうよ」 抉れた土手、ひしゃげた欄干を見る月は嬉しそうに目を細めるのだった。 -月明学園、昼休み- 硯梨は微睡みの中にいた。 昨夜からの疲れから、午前の授業はどのように過ごしたかも判らない。 そんな中、音が聞こえる。 聞き覚えのある一定のリズムに意識が半分覚醒し、続いて脳裏に響く淡々とした声で目が覚める。 目を擦って状況確認開始。ふと気が付けば昼のチャイムが鳴っていた。 『マスター、消費したカロリーを補う時間です。探査式によると調理パン系は全滅、コッペパンの残数すらも――――たった今ゼロに』 『幾ら折り畳めてコンパクトでも、鞄の八割を食う君のせいでお弁当を持って来れなかったんだけどね。はぁ、私はこっちの対策考えないと・・・・』 『ところでマスター、そろそろ私に名前を頂けないでしょうか?型式番号すら持たぬ身では、アイデンティティーが確立できません』 『言われてみればそうだね。実働テストに夢中で考えてなかったよ。本当は午前中で決めようと思ったのにこの有様なんだ。ちなみに何か希望はある?』 『では、創造主に肖ろうかと。9月が生み出した存在たる私はさしずめ10月。神無月で如何で――――』 『もしも無いのなら黒いんだし、クロで』 硯梨にセンスは皆無だった。 ちなみに自称神無月は、制御AIの本体たる結晶体の青を除けばつや消しの黒一色。 注文通り露骨な装飾は排除されていても、細かな部分には名残なのか妥協点なのか精緻な彫刻が刻まれた格調高い杖である 一度は制御AIを搭載せずに完成したが、最終的な改修作業により主人を公私に渡りサポートする杖となっていたりする。 『拒否します。神の加護すら必要としない私には神無月ぴったり。元より死角無しの最強AIですし、今後は創造主に頼らぬ意味合いも込めて一文字削り“神無”と名乗らせて貰います』 ずいぶんと大口を叩くが、それは己に搭載された特殊機能の有効性を理解しているからだ。 普通のチャンバースタッフがカートリッジに込められた低級術式を解放するだけの物に対し、神無は毛色が違う。 主に代わって己のみで式を組み立てる”詠唱”に、使用頻度の高い一定レベル迄の式を事前詠唱で保留しておき瞬間解放する”常駐”を保持。 さらには一度構築した術式を記憶領域に登録し、処理の大半を圧縮言語に置き換えることで使い手の負担を軽減する”代行”を備えているのだ。 これだけの性能にAIの性格が誇り高い事も併せれば、唯我独尊なのも仕方がないだろう。 『主が可愛い名前を考えてあげたのに・・・月といい、神無といい・・・何が不満なのかさっぱりだよ!?』 『ハイセンスすぎてちょっと、否、かなり重いと判断します』 「うう、納得がいかない。世界が私を認めてくれないって虐めだよぅ・・・・」 机につっぷしながら鞄に仕込んで持ち込んだ神無と思念通話でやり取りを行っていた硯梨だったが、気づかぬうちに声に出していたらしい。 そのことに気がついたのは、まるで危ない物を見るかのような目で怯んだ友人が頬を引きつらせていたからだ。 「す、硯っち?ストレスが貯まってるなら遊びに行く?一杯奢るよ?」 「?」 「真面目な子ほど思い詰めたら危ないって言うから、お姉さん心配だ!」 オーバーアクションで泣き真似を続ける昔からの親友、羽久いずもの奇行の意味をようやく悟った硯梨は慌てて立ち上がって言った。 ちなみに年上を気取っていても年齢の差はゼロ。僅かに一ヶ月ばかり速く産まれて来ただけだったりする。 「えー、ええと、夢?ちょっと変な夢を見ただけだよ!?」 「ジーザス!夢は人の願望の現れだっ!世界を憎むイコール今の生活に不満があるって事じゃんか。非行ダメよ?すずには空気が読めなくても素直なままで居て欲しいとあたしは思う」 「あーうん、落ち着こうね?」 「これが落ちついて居られるだろうか、答えは否っ!そうだろみんなっ!」 やおら机に飛び乗り、人差し指を天に突き上げたいずもは意味不明なアジを開始。 普通はスルーされる所だが、硯梨の在籍するこのクラスはノリの良い奴らばかりである。 叩けば響いて当然。そう言わんばかりの返事が矢継ぎ早に飛び込んで来るのだった。 「黒澄さんは天然が良いんだ!路線変更は困る!」 「そうそう、すずは自分で気がつかない愉快な発言で笑わせてくれないと!頼んだノートの科目を間違えるとかさ!」 「不良になったら宿題移して貰えなくなるから勘弁してーっ!」 次々に上がるブーイング(?)。初めのうちは窘めていた硯梨だが、目の前の親友を筆頭に話を聞かないクラスの仲間に業を煮やし始めたようだ。 次第に浮かべていた困り顔に凄みが増していき、比例するようにして瞳に炎が宿っていく。 「・・・人の話・・・・聞こうよ」 「いやー、盛り上がってきました。この勢いで放課後は有志を募ってフィーバーだ!十万億土の彼方へ行きたい奴は予定を開けとけーっ!」 空気の読めない親友の姿を見た瞬間、沈黙を保っていた神無は聞いた。 人間にとって大切な何かがブチンと切れてしまった音を。 『マスター、どうして魔力の検出が?』 「・・・”空気”、”圧縮”、”解放”、”伝播”を結合」 『しかも私を介してもいないのに無闇やたらと詠唱が速いのは――――』 不可視設定で展開された魔法陣が瞬時に処理を代行。 まるで突然トンネルに放り込まれたような気圧変化が起こり、教室の中央に圧縮された空気の塊を産んでいた。 「あれぇ?鼓膜に妙な感覚が?」 急激な環境変化に驚き何事かと首を傾げるいずもは、しかしその思考を奪われることになる。 硯梨がゆらりと突き出した腕。その先端で広げられていた五本の指が一斉に拳を形作った瞬間、最後のトリガーが引かれていた。 「・・・即興構築“音波の炸裂”」 強力な意志力によって形作られた圧搾空気が弾け、無音の衝撃が教室中を蹂躙する。 さすがに我が身だけは平行して展開した障壁で守ったが、頭に血が上った硯梨に無関係な級友をその範疇にいれる考えは存在していなかった。 しかし、例外もある。 これは咄嗟のことで範囲設定が甘かったのだろう。どうも防御圏内に一番黙らせたかった諸悪の根源を巻き込んでしまったらしい。 「す、すずさん?何をしたのかなぁ、とお姉さんは聞きたいような、聞きたくないような葛藤中だ。なんか教室が死屍累々、いきなりみんなだけがなぎ倒されたのは錯覚?」 「あはっ、日本語の通じない親友は何を言ってるのかなぁ?とりあえず、その手にぶら下げてるサンドイッチを寄越すのが平和的解決への道じゃないかと思うんだよね、私は」 「イエスユアハイネス!献上品にございます。ところでコレは何事?」 「人間素直が一番だよね。さすが長年で培ったツーカーの仲!」 「何かやったな!否定しない所を見るとオマエが何かやったな!?」 「むぐ?飢えた私の邪魔をすると、痛い目を通り越した“生きてて御免なさい”的な何かを――――」 「普段大人しい癖に、怒ったら拳を振り上げて武力行使に走るのはやめようよ・・・・」 今は話題を逸らすべきと判断したいずもは、妙に普通のコメントで場を濁す作戦に出ていた。 が、場の平穏を望む友の心中など気づきもしない硯梨は謎の自己弁護を始めるからタチが悪い。 「うちの家系じゃ普通だよ?むしろ聞いた話が本当なら、私は限りなく穏健派だもん」 「・・・そーいえば前に言ってたわね。おばさんは紛争地域を徒手空拳で渡り歩いてたとか、婆ちゃんは戦中に弓矢一本で高々度のB-29を撃墜したとか眉唾物の話をさ」 いずもも面識のある硯梨の母は穏和で綺麗なおっとりさんでなので、正直なところガセだと思いたい。 しかし、過去に一度だけ見た光景が100%笑い話と一蹴できないから恐ろしい。 アレは忘れもしない黒澄家の日差しを遮るビルが作られ始めた時のことだ。 遊びにいった際に骨組みも出来上がったビルを見上げ確かにこれは暗いなぁと思ったが、翌日忘れ物を取りに再度訪れたところビルが爆破テロでも受けたかのように半壊していた。 これは何事かと唖然としていると、丁度買い物に出かける雅美にこう言われたのだった。 “一度だけ警告はしたのよ?でも、無視されたから打ち抜いちゃった♪。ずっと使わなくても染みついた技は忘れないみたいで一安心かしら”と。 何を?打ち抜く?どうやって?ツッコミどころは山のようにあったが、笑顔なのに一切笑っていない目をみると口を挟めなかったいずもである。 「せっかく見た目悪く無いんだし、中身も外見に合わせようよ。そんな“ミサイルに比べたら拳銃なんて玩具だよね”的な逃げは止めてさ!」 その後のニュースで不発弾が埋まっていた為に起きた事故と報じられ、やっぱ冗談だったと胸をなで下ろした過去が微妙にトラウマだ。 親友にはか弱い女子高生を目線で震えさせるような大人には育って欲しくない、と切に祈る少女は自分のダメさを棚に上げて続ける。 「話が逸れたけど、そろそろ休み時間も終わるからお小言終了。でも必ず後で根掘り葉掘り聞くから首を洗って待っときなっ!」 その言葉通り、舞台の幕引きを告げる鐘が鳴る。 硯梨もいずもになら概念魔術の存在や、実は化け物ってゴロゴロしてました、と言う精神科を紹介されてしまいそうな事実を告げてもいいと思う。 なにせ愉快なこと大好きな娘だ。あっさり信じた挙げ句、嬉々として首を突っ込んでくるに違いない。 しかしそうは思っても事を性急に運ぶ必要は無いだろう。 昨晩から今朝にかけてのデビュー戦を序章とするなら、魔法使いとしての物語はまだ始まっても居ない。 何を目指せばいいかまだ判らないが、それもまた技量を磨く間に見つかるはずだ。 胸を張ってソレを言えるようになったなら――――。 「おーい、気持ち悪いくらい静かだな・・・?何事!?」 一言だけ言っておこうと思った矢先だ。 授業に現れた教師が惨状に気づき、それどころではない空気が流れる。 この後、何らかのガスによる被害と勘違いした学園によりちょっとした問題が起きるのだが、汗を一筋垂らす硯梨と、何かを察したいずもは “気がついたら皆が倒れてた。私達が最初に気がついたらしい” と一切合切を丸投げにして事態を回避。 そしらぬ顔で被害者を演じたのはまた別の話である。 一覧に戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/761.html
「町へ行くわよ。」 「は?」 ルイズの提案にびっくりするメローネ。 「急にどうしたんだ?」 「あんた、武器持ってないでしょ。その変な機械じゃあ不安だろうから武器を買ってあげようってのよ。」 「授業はどうしたんだ?」 「今日は『虚無の曜日』。授業は休み。」 「それなら別にいいが・・・マスター、金あるのか?」 「う、うるさいわね!使い魔がそんなこと心配してんじゃないわよ!」 メローネは彼の懐に豪邸が建つぐらいの金があることは黙っていた。 「で、どうやっていくんだ?」 「馬に乗って3時間ほどね。・・・そういや、あんた馬乗れるの?」 「おいおい、オレはまちゃちゅーせっちゅのばじゅちゅぶに入りたかった男だぜ?」 「・・・乗れるならいいわ。」 新ゼロの変態第三話 チャームポイントは泣きボクロ 「なぁ、ルイズ。いい武器ってのはどんなものだと思う?」 乗馬中、ルイズに話しかけるメローネ。余裕である。 ちなみに彼が乗っているのは学院一の暴れ馬ブラックローズ。 「急に何よ・・・。やっぱり鉄でも切っちゃうような奴じゃない?」 「それは剣に限った話じゃあないのか?オレは持ち主の意識を乗っ取るような奴だと思う。」 「それって・・・魔剣とか妖刀って奴じゃあないの?」 「そうかもな。でも意識を乗っ取るってのはかなりの精神力がいるだろ? そんな精神力を持ってる奴が魂が宿るほど使ってた武器だ。悪い武器であるはずがない。」 「ふーん。ま、そんなものはそうそう無いと思うけど?」 そのとき、ブラックローズの足下を白いネズミが横切った。 虚無の曜日。 タバサにとってはとても大事な日である。一日中本を読んで過ごせるのだから。 しかし、珍入者のおかげでその予定は狂わされるのである。 「タァァァァァァバァァァァァァサァァァァァァ!!」 絶叫しながらドアを蹴り飛ばして入ってきたのはキュルケである。 無駄だと思いながらタバサは呟いた。 「虚無の曜日。」 本を読みたいからとっとと失せろ、ということだがキュルケは聞く耳を持たない。 「(全略)!!!」 要約すると「私のメローネがルイズのヤローと馬で出かけやがった!ファッキン! あのクソ女に追いつくためにはYOUのシルフィードじゃあないといけない。 だから乗せてって呉れYO!ちなみに異議は認めない。」ということである。 この状態のキュルケに何を言っても無駄だと言うことはタバサもわかっている。 しぶしぶタバサは街へ向かうことにした。 「全身が痛てぇ・・・」 「それだけですんだことに感謝なさいよ。」 「いや、ホント何だよあのネズ公。今度あったら溺死させてやる・・・。」 落馬して痛いですんだだけマシである。間違えて連れて行かれたら元も子もない。 「しっかし・・・狭い通りだな。」 幅5メートルほどの道に人がひしめいているのを見て、トーキョーの聖戦を思い出した。 「・・・で、武器屋はどこなんだ?」 「確かこの辺だったはずだけど・・・」 「あ、あれだな。ちゃんと書いてある。」 「よかった、ってあんたいつの間に文字読めるようになってたの?!」 「細かいことは気にするな。さっさと行くぞ。」 そう言うとメローネ達は小汚い武器屋に入っていった。 「邪魔するぞ。」 ルイズ達が入ってきて、店の主人は弁明するように言った。 「き、貴族様がこんな薄汚い武器屋に何のご用でございましょう?うちは何もやましいことはしていませんぜ。」 「勘違いしないで。武器を買いに来たのよ。そこの使い魔のね。」 「そうっすかw!いや~、最近は物騒ですからねぇw。『土くれ』のフーケって盗賊が暴れ回っているそうっすねw。 従者に武器を持たせるのが流行りらしいっすよw。あと『魔竜軍団』ってのもいたっすねw。」 すっかり笑顔に戻った店主がたたみかける。メローネは全く別の所を向いている。 「これなんかどうっすかwゲルマニアの錬金術師シュペー卿が鍛えた業物っすよw 魔法がかかっているから鉄でも一刀両断っすよwお値段2000エキューっすw」 「ちょっと!そんだけあれば庭付きの豪邸が建つじゃない!」 店主とメローネがもめていると、メローネが割り込んできた。 「オイ店主。こいつはいくらだ?」 それは武器と呼べるようなものではなかった。刃も付いていないし、重さもそれほどではない。 「それっすかwなんかいつのまにかあったヤツっすねw値段は決めてなかったっすw」 「ちょっと、それ何よメローネ?」 ルイズの問いにメロ-ネが答える。 「・・・『ラケット』。オレ達の世界の物だ。普通はテニスというスポーツをするときに使う。 それにかなりの使い手が使っていたようだぞ」 「スポーツ用品なんて買ってどうすんのよ!!」 「話は最後まで聞くもんだ。・・・実はこれ、最強の武術『テニヌ』に使用する武器でもある・・・。」 「なにぃ!テニヌだとぉぉ!?」 店内に声が響いた。 店内に彼等以外の人影はない。 「何!?知っているのかデル公!」 店主が声に答えるように言う。 「帝弐濡(てにぬ) 遙か昔、大軍を相手にするために考案された武術。 その威力は最弱の者が使ってもも一個大隊を壊滅させるほどという。 しかし、達人になれば一人で一国を滅ぼすほどの強さのためこの武術の伝承は禁止された。 現在は庭球というスポーツを隠れ蓑にして伝えられているという。 (民明書房刊『テニヌの帝王様』より)」 メローネは蘊蓄を語った声が乱雑に置かれている剣の中から聞こえたような気がした。 「現在その存在を知るものはほとんどいないとされているテニヌを知っているとは・・・ おでれーた!お前、只者じゃあねぇな!よし、気に入った!このデルブリンガー様を買いやがれ!!」 「こらデル公!お客様に失礼な口聞くんじゃあねぇ!」 「うるせぇこのハゲ!おいあんた、テニヌ使いより剣士の方が格好いいって!な!な!」 「オレは現実主義者でな。少々無骨でも強い物を選ぶ。む・・・これは・・・」 メローネは喋る剣を放置して、ある刀を手に取った。体が軽くなったような気がする。 「店主!この刀は?」 「ああ、それですかい・・・やめといたほうがいいですぜ。」 元の口調に戻った店主が語る。 「そいつの名は『無限刃』。どっかの刀匠が造ったという殺人奇剣でさぁ。 ・・・まぁ、この剣の恐ろしさはここからです。 ある富豪がこの剣を買ったそうでさぁ。そして此奴を買ったその晩、その富豪の家が全焼したんです。 その時一人のメイドが生き残っていたんですが、そいつが妙でねぇ。」 「というと?」 「片腕が切り落とされてたんです。腹も斬られていたそうでさぁ。おかしな話でしょう? しかし只の火事じゃあなかったようで。そのメイドの証言によれば、無限刃を持った主人が 屋敷の者を斬り殺してまわって、どうやったかはしりませんが火を放ったそうです。 そのメイドが最後に見たのは、炎の中、全身を焼かれて狂ったように笑っている主人の姿だったそうです。 そのメイドは全身火傷ですぐに死にまして、無限刃は別の富豪の手に渡ったんです。」 「その後もコイツを手にした貴族に同様の不幸がおこった!コイツを買うとろくな事にならん! だからオレを買え!な!オレが居なかったらアレだよ!解説役いなくなるよ!」 メローネは無視してデルフリンガーを手に取った。また体が軽くなったような気がする。 「おでれーた!お前使い手か!なおさらオレを買え!オレ無かったら死ぬかもよ?これからキツイよ!」 「やめなさいよ、そんなうるさいインテリジェンスソード。」 ルイズが口を挟む。 「・・・お前はどう思う?」 メローネはそう呟くとデルフリンガーを眺めた。 「・・・おい、オッサン!こいつと俺様のラケット、合わせていくらだ?」 「あぁ、買ってくれるってんなら二つで100エキューでいいです。」 「ちょっとメローネ!それ買うつもり!?」 「メ・・・、あぁ、『こいつ』か。あたりまえだ。お前にはこれのすごさはわかんねーだろうがな。」 「な、なんですって!!」 「ん・・・え、あ、なんでもないんだ・・・。うん。早く買ってくれ!」 「・・・?」 微かな疑問を抱いたが、ルイズは渋々100エキュー払った。これで手持ちは『ゼロ』である。 一方こちらは店の外 「あぁぁぁぁぁの腐れペチャパイぃぃぃぃぃぃ!!!」 怒りの発信源はもちろんキュルケ。タバサも初めは覗いていたが今は本を読んでいる。 「プレゼント作戦なんてやってくれちゃって~!ダーリンの気を引こうと必死なの!? こうしちゃあいられない!あの大平原の小さな胸が買ったのは安そうなボロ剣に変なガラクタ! 待っててダーリン!この私がアレより凄い業物を買ってあげるから!」 隠れながら小声でぶつくさ言っているキュルケ。どうみてもアブナイ人です本当に(ry メローネ達が店から出てきたのを確認すると、キュルケは店に乗り込んだ。 その姿を見ながら、タバサは考えていた。 キュルケがガラクタと評したあの物体。あの形状には見覚えがある。 記憶をたどるタバサは、既視感を感じた理由を突き止めた。 あれは『破壊の杖』と似ている。しかしなぜこんな武器屋に? 思案にふけるタバサだったが、キュルケが店から出てきたので考えるのをやめた。 「どうだった?」 「やったわ!ナントカ卿が鍛えた業物とこの刀!セットで1500エキュー! さぁ!ダーリンを追うわよ!」 タバサは全速力で走るキュルケについて行った。 「ふぅ・・・いつでも人混みってのは慣れないな・・・」 メローネは街の広場で休憩していた。ルイズ?そこら辺にいるだろ。 そして彼の隣には・・・ 「そうなのか・・・大変だね・・・」 ギーシュである。モンモランシーと街に来ていたらしい。 「お前よぉ、良かったじゃあねぇか。より戻せたんだろ?」 「あぁ。土下座は偉大だね。土下座しながら事情を説明したらわかってもらえたよ。」 「そうか・・・あんないい女だ。大事にしろよ。」 カオスの一件以後、ギーシュはかなり善人になった。一部では『聖人』のギーシュと呼ばれているらしい。 シエスタや他のメイド達も貴族に絡まれているところを何度か助けてもらったことがあるようだ。 「うん・・・ドットの僕なんかにはもったいない人さ・・・ カオスに乗っ取られてからいくらか魔法が使えるようになったけど・・・ 僕なんかには・・・彼女は守れない。」 「おい、落ち込むなって。バカと魔法は使いようっていうだろ? ヤザンだってシャア押してたぜ。お前だっていけるさ。」 デルフリンガーが励ます。ちなみに彼はメローネが触れた際、彼の情報を得た。 つまり・・・解るな? 「そのとーりだ、同志デルフ。同志ギーシュ、お前の術は攻撃に防御と基本がそろってんじゃあねぇか。 それにお前にはワルキューレがある。お前が思っているよりアレは強いぞ。 とりあえずお前は陣形を学べ。」 「陣形?」 「まずは基本だ。 よいかギーシュ。 お前はインペリアルクロスという陣形で戦え。 図) 防御力の高いワルキューレAがお前の前に、 ● 両脇をワルキューレBとワルキュ-レCが固める。 ●○● お前はワルキューレDの前に立つ。 ● お前のポジションがたぶん一番安全だ。 安心して戦え。・・・ほかにもあるがとりあえずこれを読んで勉強しろ。」 そういうとメローネはギーシュにロマサガ2の攻略本を渡した。 「ありがとう、メローネ。これでだいぶ強くなれる気がするよ! 「そういや、お前の使い魔ってどんなのだ?」 ふと気になってメローネが尋ねる。 「こんなのさ。出ておいで!ヴェルダンデ!」 そう言うと足下に巨大なモグラが現れた。 「これが僕の美しい使い魔ヴェルダンデさ!宝石の匂いが好きなんだ。」 「へぇ・・・そうかい・・・確かにかわいいな・・・萌えるね・・・かわいいな・・・うん。」 メローネがしどろもどろになっているとき、背後から声が聞こえた。 「ダーーーーーリーーーーーーーン!!」 「おぉ、タバタンとキュルケじゃあないか。ってダーリンって何?」 ちなみにタバサはキュルケの遙か後方にいた。 「それよりダーリン。武器ほしかったんでしょ?はい。プ・レ・ゼ・ン・ト(はぁと」 「おいおい、無限刃と変な剣じゃあねぇか。悪いな。あとダーリンはやめろ。」 メローネは近づいてくるモンモンも見つけた。 「おい、お前さんの彼女が来たぜ。隣の恐竜は使い魔か?」 「いいや。彼女の使い魔は蛙だよ。それに恐竜って何さ?」 「へ。何って・・・あそこにいるじゃあねぇか・・・」 次の瞬間、モンモランシーが飛んできた。 「モンモランシィィィィィィィィィィ!!!」 「大丈夫。気絶してるけど外傷はない。」 「きぃぃぃぃぃさまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!『グランセン』!!!!」 ギーシュの放った大岩が、ドラゴンらしき生物に直撃する。 「はぁ・・・はぁ・・・殺ったか!?」 「まだ。でも気絶してる。」 このやりとりの最中、ルイズがやってきた。 「ちょっと!へんなドラゴンが人を襲っているわ!!おかげで街は大混乱よ!なんなのよ一体!!」 「ヴェロキラプトル・・・」 メローネが呟くように答えた。 「オレ達の世界で昔栄えていたは虫類・・・恐竜の一種だ。ここにはいないのか?」 「そう。ここには存在しないらしい。ま、別にどうでもいいことだけどね。」 聞き慣れない声が答えた。 その男を見たとき、メローネはこう思った。 「・・・ギーシュ君のお兄様・・・?」 胸にはいくつもの薔薇。無駄に高そうなブローチをつけている。きっと盗品だろう。 まぁ、少なくともギーシュ並みのセンスである。 「だぁぁぁぁれだ貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」 カオス化しそうな勢いでギーシュが叫ぶ。知り合いでは無いらしい。 「まったく・・・。人の名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀だろう。『尊敬』を知らんアホ共め。 まぁいい。私の名前はフェルディナンド。アメリカの地質学者だ。フェルディナンド博士と呼べ。」 「アメリカ・・・?まさか!ひょっとするとあんたスタンド使いか!?」 「む?スタンドを知っているとは・・・君もスタンド使いかね?」 「あぁ。これが俺のスタンドだ。」 そう言うとメローネはベイビィ・フェイスを発現させた。 「な・・・なんだそれは!スタンドにここまで明確なヴィジョンがあるものなのか!? それにその機械・・・いったい何だ!?」 「・・・ちょっとまて。話がかみ合わない。あんた、アメリカの今の大統領は?あとどうやってここへ来た?」 「第二十三代大統領ファニー・バレンタインだ!私は大陸横断レース『スティールボールラン』の際に ある任務を担っていたのだが失敗してクーガーに食い殺された・・・はずなんだ。 気付いたらここにいた。原因と帰る方法は目下捜索中だ。」 「ねぇ、メローネ・・・。ひょっとしてあいつあんたの元いた世界の人間・・・?」 「違うね。」 メローネは即答した。 「オレの記憶によればアメリカ第二十三代大統領はベンジャミン・ハリソンだ。 その時代に大レースなんて開かれた記録はない。しかもパソコンを知らない。 おそらくコイツはオレとよく似た世界から来たんだ!!たぶん。」 「すげーぜ相棒!なんて洞察力だ!」 とりあえずデルフが褒める。 「ひとつ・・・聞いていいかしら?」 キュルケが尋ねる。 「あなた・・・どうしてこんな事をするの?」 「なぜか・・・。この世界の人間は『尊敬』を知らなすぎる。魔法が使えるからと言って威張り散らし 人を敬うことをしない。あまつさえ平民と呼ばれる人間を奴隷扱いだ。 まるで中世のヨーロッパだ。『因果応報』って知ってるかね?他人にした扱いは自分にいつか返ってくる。 貴族共もじきに革命が起こって滅ぶだろうさ。いや、もう起こってるかな? それにね、人間を『尊敬』できない者がどうして大地を『尊敬』できる? 恐竜たちは大地を尊敬しなかった!大地を冒涜すれば自らに返ってくると言うことが理解できなかった! こいつらは『尊敬』を知らぬアホ頭だから滅んだのだ! どうせここの民もすぐに滅ぶ!なら私がこの世界を征服して元の世界に帰る! その後我らが『合衆国(ステイツ)』の一部となればよい!魔法の技術もアメリカのものだ! そうすれば我が祖国は強大になり、永久にッ!無限にッ!『尊敬』されるのだ!! もちろん人権もある!今よりすばらしい世界になるぞ!さぁ!我が名を聞け! 我が名はフェルディナンド!この人間を恐竜に変える力!『スケアリーモンスターズ』でこの世界を征服する者だ!」 「電波ゆんゆんのクソ長げぇイカレた演説ごくろーさま。タバタン、聞いてなかったんで三行で要約してくれ。」 「アメリカが 最強だ 崇めろボケ共」 「ありがとう。あいつの糞っぷりがよくわかった。」 「けっきょく只の変態ね。盗賊だった方がまだましだったわ。」 「そんなちゃちな能力でメイジがやられると思っているの!?」 「まったく、立派な事を言ってるように見えるけど無駄に長いだけだよね。」 次々に博士を罵るルイズ達。 「それに、お前は世界征服なんてできやしない。ここでオレ達に殺られるからな。」 「・・・少しは話がわかるかと思っていたが・・・。がっかりだ。 まぁ、君達も恐竜の仲間入りができるんだ。喜びたまえ。」 「ありがとよ。お礼にボコボコにしてやんよ。」 「安心したまえ。命までは取らんよ。大事な戦力だからね。」 スタンド使いは引かれ合う ――間田敏和 この言葉通り、引かれ合った二人の戦士が今、世紀の戦いを始めた。 to be continued・・・
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2397.html
第三話 「箸とスプーンとおしゃべり子猫」 「……春だなあ」 「そうですね」 「もう少しでGWも終わりだな~」 「そうですね」 「しかし朝は暇だなあ」 「……そうですね」 「こんなに暇なら明日まで手伝い延長しちゃおうかな~」 「って、なんでですか!」 僕、水野健五は箒を床に叩きつけました。 「なんだよ、別にいーだろ?」 「昨日一日って約束だったじゃないですか!」 僕は正直疲れていました。思ったよりもお店の仕事が辛かったのです。朝から掃き掃除に拭き掃除、お昼は注文を取ったりやらなんやら。 おまけに輝さんがなにかと僕に仕事をやらせたがるのです。そのせいで、昨日までのはずだった手伝いを今日もやるはめに。 「いやあでもさ、なんだかんだ助かってるぜ? うちは人手足りねえし」 「でも……」 「クレアを見てみろ。文句一つ垂れねーで、偉いねえ全く」 「ありがとうございます!」 僕の神姫、クレアも一緒に手伝いをしていました。神姫がいると手の届かないところまできれいにできるそうで、分からないことは輝さんの神姫が教えてくれています。 「いいですか、雑巾はこう、内角を狙ってえぐりこむように……」 クレアに仕事を教えてくれるのは、輝さんの神姫で名前はメリーといいます。普段はお掃除や注文をとるのを担当している神姫で、あんな細くて小さい体のどこにそんな力があるのかと思うくらい、凄く強い神姫です。 「わあ、凄いです! マスター! これも特訓なんですよ! 雑巾のお仕事は肩と腰の筋肉を鍛えるそうです!」 「神姫は機械なんだから筋肉関係ないでしょ。……っていうか、誰に教わったのそれ」 「輝さんとメリーさんですよ! いやぁ~本当に凄い方々です」 「……はあ」 昨日からずっとこんな調子で、僕は夕方まで手伝いをさせられているのでした。 でも悪いことばかりでは無く、分かったこともいくつかあります。 「おっ、おはよう。今日も来てくれたのかい。ありがとうね」 今奥から出てきた人はこのお店のご主人で、明石京介さんといいます。 輝さんはおやっさんと呼んでいますが、そんなに年を取っているようには見えません。 輝さんとはどういう関係なのか聞いてみたら、笑ってごまかされてしまいました。ちなみに輝さんにも聞いてみたら、そんなことはいいからとお皿洗いをやらされました。……なので、未だに謎のままです。 あと、このお店にはもう一人、料理を作る神姫がいるのです。 「あー、人が多いってのは仕事が楽でいいねえ。じゃあ、俺は今のうちにレポートでも仕上げて……」 そう言って立ち上がろうとした輝さんの頭に、後ろからすりこぎが振り下ろされてごつんと音を立てました。 「ぐわっ!」 「アンタ何サボってんのよ!」 今輝さんを殴った赤い神姫は、輝さんのもう一人の神姫で雅という名前です。お昼ぐらいになると明石さんと料理を作っています。 黒い髪が綺麗なこひる型の神姫なのですが、ちょっと怒りっぽいです。 「痛ぇ~。……てめえ雅!何しやがる!」 「何じゃないわよ! ちょっとは働きなさいよこのあんぽんたん! そんなんだから料理の腕も何もかもダメダメなんじゃないの!」 「うっ……うるせーよ!」 輝さんが暇なときに何もしてないのは分かるけど、料理はおいしいと思うのです。どうしてそこも怒られるんだろうなと思いました。 でも大変です。昨日から手伝いをして分かったのですが、この状況はよろしくないです。なぜかと言うと……。 「アキラさん! 大丈夫ですか!」 掃除をしていたメリーさんが、いきなりロケットみたいに飛び出していきました。 「まあ、大変……。まったく、物で叩くなんてどこの野蛮な神姫さんでしょう。顔が見てみたいですね」 「ちょっと何よ。あたしのこと?」 「あらぁ? 誰もあなただとは言ってませんよ? それとも何か心当たりがあるのかしら? 教えて下さらない? 粗野で短気な雅さん」 「……あんた、喧嘩売ってんの?」 「とんでもない。あなたと喧嘩をする暇があるなら、雅さんが大事にとっておいた抹茶ヂェリーをこっそり飲んだほうがまだ有効に時間を使っているというものです。ああ美味しかった」 「へえ~。……何してくれとんじゃあんたはぁ!」 とうとう雅がすりこぎを振り回して暴れ始めました。メリーはそれをひょいひょい避けています。 「おい雅! 調理道具で遊ぶんじゃねえどぅほおっ!」 「きゃあ! どうしましょう、このままだとあの赤だるまにアキラさんが殺されてしまいます!」 「だったら避けるなこの貧乳神姫!」 「ひっ……!? い、言ってはならない事をっ!」 メリーがついにフライ返しを持ち出して応戦しはじめました。……この二人は顔を合わせるたびに喧嘩ばかりしています。口げんかならまだ良いんですけど、輝さんが絡むと毎回大事になるので大変です。 「おおおっ……これが修羅場っていうものですね! 二人の女が一人の男の愛をかけて戦う……この前見たドラマと一緒ですよマスター!」 「どうしてクレアはそう感化されやすいんだい! ……明石さん! 止めて下さいよ!」 こうは言ってみるものの、明石さんはいつもニコニコして見ているだけなのです。 「大丈夫だよ。それより輝、ちょっと及川さんのところまでお使いに行ってくれないか?」 明石さんの言葉に、今までカウンターに死んだようにつっぷしていた輝さんが顔を上げました。 「……めぐみさんのとこですか?」 「ああ、丁度頼んでいた魚があると思うんだ。輝だけじゃなんだし、健五君も一緒に受け取りに行ってくれるかな?」 「行くぞ健五」 「あっ、待ってよ輝さん」 輝さんは妙に急いで出て行きます。 僕がそのあとを追いかけていく間も、二人の喧嘩は止みませんでした。 ※※※ 輝さんは相変わらず急ぎ足で商店街のアーケードを歩いて行きます。 「輝さん速いよ……。これからどこ行くの?」 「魚屋だよ。うちでちょっとひいきにさせてもらっててな。あそこの魚はうめえぞ」 「へえ」 三百メートルほど歩いたでしょうか、その魚屋さんらしいお店が見えてきました。 「魚のおいかわ」というお店で、沢山魚が並んでいます。お店の前には女の人が一人いました。 「こんちわっす、めぐみさん」 「あら、輝じゃん。どしたのさ、こんな早く」 どうやら女の人はめぐみさんというらしいです。笑うと白い歯が光って、すごい美人だなと思いました。 「おやっさんからお使い頼まれたんで……」 「ああ、あれか。ちょっと待ってなよ。いや、最近は漁獲量も減っててさ……」 「ホントっすか? どうなるんすかね……」 めぐみさんは話しながら何か用意しているみたいです。なんだかしゃべり方もさばさばしていて、ちょっとかっこいいです。 僕は待っている間、魚がいろいろあって面白いなと思ってあれこれ見ていたのですが、その時、何かがレジの上で寝ているのに気がつきました。 「ん?」 キーの上ですやすや寝息をたてているそれは、良く見るとマオチャオ型の神姫でした。しっぽが同じ間隔でゆらゆら揺れていて、見ていると面白いです。 「ん、ふにゃ」 あ、起きたみたい。 「みや? きみはだあれ?」 「あ、僕は……」 僕が名乗ろうとしたときです。 「あのねあのね、みやこ昨日お姉ちゃんとテレビを見たの」 「え?」 「それでね、むかしの番組をやっててね、まんまるで青いロボットさんがでてきたのみや」 「えっと」 「それでねそれでね、そのロボットさんは、未来の世界の猫型ロボットって言ってたのみや! みやことおんなじ猫なのみや! でもでも、ロボットさんは二十二世紀生まれって言ってたから、みやこよりも年上なのみや! でもでもでも、お姉ちゃんとお話ししたら、あれは昔のロボットさんだって言ってて、だからみやこの方がお姉さんで、あれ? みやこがロボットさんよりもお姉さんで、だけどロボットさんは二十二世紀のロボットさんで、それでみやこは三年前に起動して、それで……ぷしゅー」 「うわあっ!?」 みやこというらしいマオチャオはひとしきりしゃべった後、頭から煙を吹き出してしまいました。 どうしたら良いのかと思っていると、 「みやこーっ!」と、めぐみさんがすっ飛んで来ました。 「みやこぉ~! 大丈夫か~?」 「お、お姉ちゃん。大丈夫みや。みやこちょっと考えすぎちゃったのみや」 「ああ、みやこ! あんたはどうしてそんなに健気なのぉ~!」 めぐみさんはみやこにずっとほおずりしています。さっきまでのさっぱりした感じはどこへ行ったのかと思うくらいにデレデレです。 「あ、あの……」 「っは! ……あはは、ごめんねー」ちろっと舌を出して笑うめぐみさん。 「あたしったらこの子のことになると周りが見えなくなっちゃってさ。……ところで君は? 輝の知り合いかな?」 「あ、はい、水野健五っていいます。……そのマオチャオ、及川さんの神姫だったんですね」 「めぐみでいいよ。あと、この子はみやこって言うの。みやこ、挨拶なさい」 「みや! みやこなのみや! けんちゃん、よろしくみや!」 あはは。いつの間にかニックネームが付けられていました。 めぐみさんは、魚が沢山詰まった発泡スチロールの箱と、手のひらぐらいの大きさの紙の袋をくれました。 「ほんじゃこのへんで帰るか。じゃあまたよろしく、めぐみさん」 「おう、また来なよ」 「またねー」 帰り際にめぐみさんとみやこが手を振ってくれました。 「いい人達でしたね」 「ああ。……やっぱ綺麗だよなぁ」 「え?」 輝さんが何か言ったみたいでしたが、最後の方は小さくて聞こえませんでした。なんか顔もちょっとだけ赤いです。 「な、なんでもねーよ」 どうしたというのでしょう。僕にはよく分かりませんでした。 ※※※ 「戻ったぞ-」 お店に戻ってみると、さっきとは打って変わって静かでした。メリーはクレアと黙々とテーブルを磨いています。雅はぶすっとした顔でお味噌汁をかき混ぜていました。その隣で明石さんは大きな赤い肉を切っていました。 「やあ、お帰り。輝、カレーの仕込みをするから手伝ってくれないか」 「あ、はい。っと、ちょっと待っててください」輝さんは荷物を置くと、めぐみさんがくれた紙袋を開きました。 「おい、雅」 「……何よ」 「これ。めぐみさんがくれたぞ」 そう言って取り出したのは、薄緑色に光る小さなボトルでした。 「あ。それ……」 「抹茶ヂェリー。好きだろお前」 輝さんはそれを雅に手渡すと、軽く頭を下げました。 「悪かったな。ちょっとサボりすぎたかもしれねー」 「……ふ、ふん。分かれば良いのよ。分かったらさっさと京介さんの事手伝いなさい」 「おう。あと、メリー」 「あ、あたしもほら、ちょっとだけ言い過ぎたかなって……ってちょっとアキラ! 聞きなさいよ!」 輝さんはもうメリーに話しかけています。 「どうしました? アキラさん」 「さっきは心配してくれたんだろ? それは嬉しいんだが、喧嘩はいけねえ。分かったか?」 「……まあ、アキラさんがそこまでおっしゃるなら」 「ありがとよ。あとこれ、めぐみさんがお前にって作ってくれたぞ」 「え? ……わあっ! かわいい!」 輝さんが手渡したのは小さなクマのぬいぐるみでした。 「みやこの分も作ったからお前の分もってさ。大事にしろよ」 「はい!」 メリーは満面の笑みで答えたのでした。 「さあ、あと三十分で開店だ。準備しようじゃないか」 明石さんの一言に、みんなが頷きます。 「はい!」 さあ、これからが大変です。お昼を食べに来るお客さんが、いっぱい来るのですから。 「……はい、じゃあ健五君はこのへんで。今日もありがとうね。はいこれ」 「……はは」 六時くらいになってから、僕たちはようやく解放されます。今日は明石さんが大根を持たせてくれました。 「また明日も来いよ。楽しい楽しい雑用とかやらせてやるから」 「やりませんよ。さっき怒られたのにまだ懲りてないんですか」 輝さんとそんなやりとりを交わしながら帰りの支度をします。 「じゃあ帰ろうか、クレア」 「はい。皆さん、今日もお世話になりました」クレアは丁寧にお辞儀をします。 「こちらこそ。またいらしてくださいね」 「良かったらまた来なさい」 「仕事がしたかったらいつでも来いよ」 「はは……」 いろいろ思うところがありましたが、とりあえずお店を出ました。 外はもう夕日で真っ赤に染まっています。 「早く帰って宿題やらないとな。お手伝いばっかりでぜんぜん進まないや。輝さんったらひどいんだから」 「……でも、マスターってばお手伝いの時凄く楽しそうでしたよ」 「え?」 クレアはニコニコ笑っています。 「こんなに活き活きしたマスター、あたし久しぶりに見ました」 「……そうかな」 「はい」 ……知らず知らずのうちに、あのお店の空気に毒されてしまっていたのかも知れません。 でも。 「さっ、早く帰ろう」 それでいて、また行っても良いかなと思う僕がいるのでした。 第四話 味噌汁とナミダへ続く 武装食堂へ戻る